【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

少し前方で呆れたような表情をしていた律は、仕方無さそうな溜息を付くと、弥依彦に向かって言い放つ。

「おい、デブ!しっかり着いてこいよ!遅れれば置いていくからな!」

すぐさま走り出した律をミナトが追い、その後ろをドタドタと弥依彦が付いてくる。

三人は一度も休む事なく地下牢を走り抜け、やがてその先に見えてきたこれまた頑丈な鉄の扉にぶち当たった。

「これが外扉だ!この鍵で開けろ!」

「分かった!」

ミナトから鍵を受け取った律は、すぐさま錠前を外す。

バッ!と開け放たれた扉の向こうには、外の世界が広がっていた。

足元にはまだ少し雪が残っていて、少し離れた所には一面の森が広がっている。

どうやら砦の裏手側に出たらしい。

ずっと部屋から見下ろしていたはずの景色に、カヤは今まさに降り立っていた。


「森へ走るぞ!」

律の合図と共に、三人は扉の外に飛び出した。


「―――――……おい!脱走だ!」

次の瞬間、遠くの方からそんな声が聞こえ、ピィ―――ッと甲高い笛のような音が夜の空気を切り裂いた。


「くそっ!もう見つかったか!」

頭上でミナトが大きな舌打ちをした。

バタバタバタ!と言う足音と共に、複数の人間の影が近づいて来て、カヤにはそれが兵だとすぐに分かった。

「先に行け!」

先を行っていた律が、ピタリと足を止めた。

いつの間にか懐から苦無を取り出しいる。
どう見ても、兵達と戦うつもりだった。

こちらに向かってくる兵は、ざっと見て五、六人は居る。

律が強いのは分かっているが、あんな人数一人で倒せっこない。


「でも、お前っ……」

カヤと同じ考えらしいミナトが、思わず、と言ったように足を緩めた。

「良いからさっさと行け!」

律が迎え撃つ体勢を取った時だった。


―――――ふわり、と二人の人間がカヤ達の前に躍り出た。


一人はかなり大きな身体をしていて、もう一人の方は対照的に細身だ。

どちらも不自然なくらい布を目深に被っており、顔は見えない。

謎の二人組は、すぐに剣を抜き身にして、律と同じように兵達と討ち合う構えを取った。


「なるべく斬るなよ!」

細身の人物が、図体の大きな方の人物にそう叫んだ。

丁度その時、兵達が三人に雄叫びを上げながら襲い掛かってきた。

「期待はせんで下さい!器用な真似は向いてないので!」

大きな図体の人物は斬撃を受けると「ふん!」と気合いの入った声と共に、相手の手中から剣を弾き飛ばした。

「なっ……」

驚愕して立ち止まる兵のがら空きの懐に、肩で思い切り体当たりを喰らわせる。

後ろに吹っ飛んでいった兵は、地面でくちゃくちゃに丸まっていた。