【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

やがて階段を降り切った所には、鉄の扉があった。
小さいが、かなり頑丈そうな扉だ。

「ここは?」

「地下牢だ。ここを抜けた先に外扉がある。普段なら外に出た所に見張りが居るから到底逃げれねえけど、今の爆発で多少は人数減ってるだろうから、無理やり突破する」

早口で一気に言ったミナトは、懐からジャラジャラと鍵の束を取り出してきた。

ミナトはその中から一本の鍵を探し当てると、錠前を外した。

ギィィ……と重たい扉が開き、中から湿っぽい空気が漏れ出してくる。

僅かに開いた扉の隙間から、ミナトは慎重に中を窺った。

「……よし、誰も居ねえな」

その扉を開け放った時、後ろから二人を呼ぶ声が聞こえた。

「カヤ!ミズノエ!」

軽やかに階段を駆け下りてきたのは、律だった。
頬に少し炭が付いている。

「来たな!行くぞ!」

ミナトと律は、急いで扉の中に飛び込んだ。

さすが地下牢と言うだけあって、陰気な雰囲気の場所だった。

空気は重たく淀んでいて、上から垂れてくる水滴で壁も床も、じめっと濡れている。

目の前には一本の通路が真っ直ぐに続いていて、両側には柵に囲われた牢が並んでいた。

「私が先を行く!カヤを頼むぞ!」

「分かった!」

カヤを抱えているミナトを後ろに行かせ、律は通路を走り出した。

ミナトもまた、その背中に続く。

二人の走る速度が速いため、あまりじっくりとは見えなかったが、時折真っ暗な牢の中がチラチラと垣間見えた。

幾つかの牢には人が入っていて、駆け抜けていくカヤ達を虚ろな目で見つめていた。

その雰囲気に怖気づいてしまい、思わずミナトの衣を握り締めると、

「―――おい!おい!お前ら!」

突如飛んできた声に、カヤの心臓はひっくり返った。

しかしながら何とも聞き覚えのある声だ。
カヤは咄嗟に声のした方に顔を向けた。

「や、弥依彦……!?」

なんとすぐ近くの牢に、あの我儘王子が入っていた。

身に付けているのは罪人が着用するような簡素な衣で、最期に会った時よりも随分と痩せている。

言われなければ、彼が一国の王だったとは誰も分からないだろう。

そう言えば、弥依彦は謀反以来、地下牢に閉じ込められているのだ、と女官長が言っていたことを、ようやく思い出した。

「おい!行くな!僕を助けろ!」

ガシャン、ガシャン!と柵を揺らしながら、弥依彦は必死の形相でカヤ達に訴えかけていた。


「来い!あいつを助けてる暇は無いぞ!」

前方で律が叫び、ハッとしたように意識を取り戻したミナトは、再び走り出そうとした。