【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「ありがとう、ミナト……ううん、ミズノエ」

揺るぎなくカヤを見つめるミナトから、一切眼を反らさずに言う。

「貴方はちっとも変わってない。ずっとずっと背も伸びて、ずっとずっと強くなったけど、優しいミズノエのままだ」

見た目の面影はこれっぽっちも無いけれど、やっぱり貴方はミズノエだ。

昔のままの貴方で、そしてきっとこれからも、貴方のまま。

「私はミズノエの事が大好きだよ。でも、ミズノエがさっき言ってたみたいに、きっと何かが違うの。翠への思いとは、全然違う」

どちらも大切な事には変わりない。
どちらも守りたい事には変わりない。

それでも、もう同じくくりには出来ないのは、自分でも良く分かった。

「きっと翠じゃないと駄目なの。私は翠を幸福にしたいし、翠のためにも幸福になりたい。そのためには、やっぱりあの人の隣に立ちたい」

何度道が分かれ、離れ離れになっても。
何度孤独な道に成り下がっても。

それでも何度だってまた道を交え、あの人の手を取る。

そうして私達は、その先に待っている夢に向かって息を切らして走っていく。


「選ばせてくれて本当にありがとう。でも、ごめんなさい。私はミズノエのお嫁さんにはなりません」

その手を取れば、きっと辛い思いをせずにすむだろう。

けれど、やっぱり目の前の荒い道を歩んでいきたかった。

果て無き向こうに待つ、意志の結晶のために。


「だから、どうかお願い。貴方は貴方のままに生きて。それで、必ず幸せになって下さい」


――――――大切な人。どうか貴方だけの幸福を、その道の先に見つけて。





「……分かったよ。ちゃんと言ってくれて助かった」

ミナトは、ゆっくりと腰を上げた。

膝に付いていた土を払うミナトの表情があまり見えなくて、カヤは緊張しながら彼を見つめる。

「はーあ。よりにもよって翠様かよ」

すると、顔を上げたミナトが、大きな背伸びをした。

「うっかりお前に手出さなくて良かったな。危うく叩き切られる所だったわ」

参ったように笑うその表情に、ほっと息を吐く。

不安がっているカヤのために、わざと冗談めいた事を言ってくれているのだと分かった。