【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

"ミナトはきっと、カヤちゃんを慕っているのです。お友達としてではありません。一人の女性としてです"

翠にミナトとの会話を禁じられ、けれど諦め切れずに会いに行った時、偶然居合わせたナツナが確かにそんな事を言っていた。

珍しく声を荒げていたナツナを思い出しながら、カヤは首を捻る。

「どうしてそんな勘違いしちゃったんだろうねえ」

不思議に思っていると、何故かミナトは気まずそうな表情を浮かべて、頬を掻いた。

「あー……まあ、この際だからぶっちゃけるけど……と言うか、ずっと言わなきゃならねえなと思ってたから、この機会に言うけど……」

「ん?なに?」

「……怒るなよ?」

「う、うん」

そんな前置きと共に、ミナトはゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。

「お前さ、膳様の騒動の後に俺のこと見舞いに来ただろ」

(膳の騒動って……)

体調の悪い翠のために森へ雪中花を取りに行ったら、まんまと膳の手下に攫われてしまった時の事だろう。

ミナトは手下達に崖の下に落とされ、カヤは膳に危うく切り殺されかけ、助けに来た翠はそのままぶっ倒れるしで、中々に波乱に満ちた騒動だった。


「うん、行ったね」

助けられた直後に気を失ってしまったカヤは、眼を覚ましたと同時、ミナトの家までふらふらになりながら歩いていったのだ。

「で、俺にしがみ付きながら、わんわん泣いただろ」

「はは……確かにわんわん泣いたね」

てっきりミナトが死んでしまったものだと思っていたものだから、彼が生きているのを見た時の安堵感は今でも忘れられない。

おかげで脇目も降らずに、ミナトの胸で泣きじゃくってしまった。


子供みたいに泣いてしまった自分を思い出して苦笑いしていると、ミナトは何故だか居心地が悪そうに頭を掻きながら視線を落とした。

「まあ、あの時だな……十数年ぶりにお前に抱き着かれたのと、なんと言うかこう……お前が生きてて、死ぬほど安心したのもあって……」

「……あって?」

一向にこちらを見ようとしないミナトに、思わず眉を寄せる。

彼は視線をウロウロと彷徨わせながら、不思議なくらいに言葉を濁した。

「その……しようとしたんだよ……」

「何を?」

「…………」

「……何を?」

「…………口付けを」


ものの見事に時が止まった。
二人の間を、ヒュオッ、と冬の冷たい風が吹き抜ける。

まるまる十秒間は言葉を失ったカヤは、

「はあ!?いやいや、何しようとしてくれてるの!?」

衝撃のあまり、ミナトの頭をバシバシと叩いてしまった。