【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「それで兄上に言われた通り孤児を装って、屋敷に入り込んで、あの国を内側から崩すために少しずつ翠様に近づいていったんだ。役割を果たせば国に戻って、それなりの地位に就く事が出来る。約束通りお前を嫁にする事だって出来る。とにかくそれだけを目的にして、我武者羅にやってきた」

ミナトは、ミナトの人生を呆気ないほど凝縮して言葉にする。

「そうしたら気が付けば中委になってて、タケル様にもそれなりの仕事任されるようになって、ヤガミ達みたいな部下も大勢出来た。多分皆んな俺の事信用しててくれたんだろうけど、まあいつかはこの人達の事を裏切るんだろうって思いながら、生きてた」

淡々と話す横顔を辛い気持ちで見つめていると、不意にミナトがカヤに顔を向けた。

「そうしたらさ、今年の春にいきなりお前が現れた」

そう言ってミナトは、可笑しそうに眉を下げた。

「吃驚したなんてもんじゃねーぞ。いきなり売られそうになってるし、翠様に啖呵切るし、しかも昔はあんなに素直だったのに、なんか性格悪くなってるしよ」

カヤは居た堪れなさで俯いた。

心がいっぱいいっぱいだったとは言え、あの時カヤは親切にしてくれたナツナに酷い態度を取ってしまったのだ。

「ナツナには申し訳ない事したと思ってるよ……」

唇を尖らせて消え入りそうに言えば、ミナトは肩を揺らす。

「まあでも、やっぱりお前はお前だったよ。何も変わって無かった。助けたい、って思えるお前で良かったわ」

カヤはミナトを見つめた。

あの国に居た時、そんな風に思っていてくれたなんて全く知らなかった。

言葉に出来ない申し訳なさでいっぱいになる。

ミナトはどんな時もカヤを守ってきてくれた。
そしてきっと、カヤの与り知らぬ所でもカヤを守ってくれていた。

それを知れていたら、どれだけ良かったろう。


「……ごめん。私、全然気づけなくて」

「いや、あれはあれで割と楽しかったぞ。と言うかお前が何も知らずに普通に接してくれたからこそ、ってのもあるんだろうな。多分俺、人生で一番楽しかったわ。お前と、それからあいつ等と過ごせて」

朗らかに言ってくれたミナトに、頬が緩まる。

「うん……本当に、楽しかったよね」

カヤも全く同じだった。

あんな色の付いた世界、此処に閉じ込められていた頃に比べると、まるで奇跡のように素晴らしかった。

楽しかった日々を微笑みながら思い返していると、ふとミナトが何かを思い出したように、くすりと笑った。

「そう言えば、お前は気付いてなかったみたいだけど」

「へ?」

「あいつ等さ、俺がお前の事を好いてると思ってたみたいで、事あるごとにくっ付けようとしてきてたんだよ。ほんと、お節介な奴らだよな。つーか、ユタとヤガミに関しては、ありゃ完全に面白がってたな」

苦笑いしながらも、懐かしそうに話しをするミナトを見て、ふとカヤも思い当たる事があった。