【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「やっぱり、そっちの方がミナトらしいや」

そう笑ったカヤに、ミナトも仕方なさそうな笑みを零す。

この砦に来て初めて見たミナトの笑顔は、何ら変わっていなかった。


(ああ、ほら。その顔なんだよ)

ずっとずっと、それが見たかった。



一しきり笑い終わった後、ミナトが口を開いた。

「……なあ、琥珀」

「ん?」

「暴れんなよ」

そう言ったミナトは、寝台に横たわるカヤの身体の下に腕を入れ込こむと、

「っひゃあ!」

次の瞬間、軽々とカヤを抱き上げた。


「な、何!?」

咄嗟にその首にしがみ付くと、ミナトがケラケラと笑った。

「連れて行きたい場所があんだよ。大人しくしてろ」

スタスタとそのままの状態で廊下に出て行くので、仰天してしまう。

「自分で歩くよ!恥ずかしいよ!降ろしてよ!」

真っ赤になりながら叫ぶが、カヤをしっかりと抱くその腕は下ろしてくれる気配を見せない。

「安静にしてろって言われただろ。良いから」

確かに念入りに釘を差された事を思い出したため、カヤは、ぐっと口籠った。

もう何を言っても下ろしてくれないだろう。
仕方なく諦める事にした。

道中すれ違う砦の人たちは、カヤ達を見ると、何とも言えない笑みを向けてきた。

羞恥のあまり両手で顔を覆いながら耐えていると、やがてミナトは、カヤが今まで足を踏み入れた事のない砦の奥にやってきた。

「悪い。上に行きたいから通してくれ」

ミナトがそう声を掛けたのは、壁にぽっかりと空いた穴を警護している二人の兵だった。

穴の直径は、人ひとりが十分に入れそうな大きさがある。
中を覗き込めば、上に向かって階段が伸びていた。

一体どこに続いているのだろう。


二人の兵はカヤ達を見ると、何やら堪えきれないような笑みを零しながら道を開けた。

「見せつけて下さいますねえ」

「いやぁ、お熱い、お熱い。仲睦まじくて何よりでございます」

思いっきり茶化され、恥ずかしさで消え入りたくなっていると、ミナトは「うるせえ」と毒づきながら階段を昇っていく。

十段程上がった頃、後ろから兵達の声が追いかけてきた。

「クンリク様に見惚れて転げ落ちないで下さいね!」

「落ちるか!」

噛み付く様に言ったミナトが「ったく、あいつ等……」と文句を垂れる。

未だ火照る頬を押さえていると、ミナトは複雑そうな顔で謝ってきた。

「悪い……なんか、お前との祝言の話が広まった辺りから、やたらからかわれる様になってな……あいつ等と言いヤガミ達と言い、なんだって俺の周りにはああ言う奴らが集まるんだか……」

ぶつくさ言うミナトに、カヤはまた気付かれないように小さく笑った。