【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

窓に目をやれば、鉄格子越しから入り込んでくる朝の光が目に痛い。

驚くほどに真っ白な光だ。
夏場はもっと煤けた色なのに。

きっと、外が雪に覆われているせいだろう。

ぶるり、と凍るような冷気に身震いし、カヤは深く溜息を付いて寝台から降り立った。


―――――砦に帰って来てから、十日程が経っていた。





「おはようございます、クンリク様」

最低限の身支度を整えたカヤが広間に足を踏み入れると、すでにそこにはハヤセミが座していた。

丁寧な挨拶を投げかけられるが、カヤは「……はい」とだけ呟き、ハヤセミから一番離れた席に腰を下ろす。

生憎、用意されている席は三席だけなので、そう遠くも無い距離だが。


なんとも奇怪な事なのだが、砦に戻ってきた次の日、ハヤセミはカヤに毎朝と毎夕の食事を同席するように命じた。

正直顔すら見たくない相手なのだが、情けない事に逆らう勇気は無かったため、カヤはそれに従った。



カヤはここ数日、逃げ出せる糸口を見つけるため情報収集に徹していた。

とは言えこの砦には気軽に話しかけられるような相手も居ないし、食事以外で部屋を出る事は禁じられている。

そのため、部屋と広間の往復の合間に、兵達が話している会話を盗み聞くくらいしか出来なかった。

少ない情報をどうにか繋ぎ合わせた結果、どうもハヤセミが弥依彦に対して謀反を起こしたのは、カヤが攫われた次の日だと言う事が分かった。

律曰く、カヤは二日間気を失っていたそうだ。

つまりカヤが眼を覚ましたほんの前日に政権交代が起こったと言える。

偶然なのか、はたまたいつでも謀反を起こせるような状態をハヤセミが作り出していたのか―――真実は定かでは無いが、とにかく王が変わって日が浅い事もあり、砦の中はまだ少し慌ただしかった。

それでも日の経過と共に、随分とそれも落ち着いたように感じる。


律は、ほとんど砦に居なかった。

一体どこに行って何をしているのか、気になって聞いてみた事はあったが、上手い事はぐらかされてしまった。

律は砦に居る時は、ずっとカヤの部屋に居て話し相手になってくれたが、彼女が居ない時は、カヤはものの見事に一人の時間を味わうしか無かった。


そして、ミナトはと言うと――――――

「遅れて申し訳ありません!」

息を切らせながら広間に入ってきたミナトを、ハヤセミが見やった。


「遅い。早く席に着け」

「はい」

短く返事をし、一つだけ空いていた席に足早に付くミナト。

そこに腰を下ろした時、彼がこちらを僅かに見やった。

何となくミナトを見ていたため、自ずと視線が合ったが、それはすぐにカヤの方から逸らした。


ミナトは、律以上に砦を不在にしているようで、食事の席には一応毎回現れるものの、今のように遅れてくる事が多かった。