【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「太陽は見せてあげられないけど、代わりにこれ、あげる」

ニコッ、と笑ったミズノエは、その髪飾をカヤの髪にそっと差した。

「うん、似合うよ」

そう言って、走ったせいか汗ばんでいる腕で、カヤを包み込む。

まだまだ華奢だけれど、初めて抱き締められたあの日に比べて、彼の腕は随分と成長していた。

「ねえ、琥珀。君は僕のすべてだ」

ミズノエの腕が強く抱き寄せる。
ミズノエの声が耳元で囁く。

いつだって傍に居てくれて、いつだってカヤが気付かない所でカヤを見守ってきてくれた、優しいミズノエの。


「こんな僕のこと大好きだって言ってくれたの、君だけだったんだよ。琥珀は、まるで僕の太陽だ」

――――――太陽。

何よりも温かくこの身を包んでくれる、絶対的な存在。

血の海に溺れて冷え切った身体でさえ、それに触れればゆっくりと体温を取り戻す。

私じゃない。
この冷たい砦の中で、ずっとずっと太陽で居続けてくれたのは。


「僕は琥珀が大好きだよ。僕の腕の中の琥珀が一番大好きだ」

じわじわと溢れ出し、やがて感情の波が濁流になる。
叫び出したくなって、音になりたいと必死にせがむ。


私もだ。私も、ミズノエの腕の中が―――――


「……わ、た……し、も……」


錆び付いたように出てきたそれは、途切れ途切れだった。


ミズノエは勢いよくカヤを放すと、まじまじと顔を覗き込んでくる。

「琥珀……?今、声が……?」

カヤ自身驚いていた。
その感覚は久しぶりだった。信じがたかった。

咽喉が震えたその感覚に戸惑いながらも、深く噛みしめる。

確信していた。取り戻したのだと。

声と共に、ミズノエの優しさを心底嬉しく思える、感情と言うものを。


久しぶりに瞳が涙で潤うのを感じながら、カヤは目の前のミズノエに笑いかけて、息を大きく吸った。

「ミズノエッ……」

涙交じりに名を呼べば、当の本人はカヤ以上に涙を流しながら、再び抱き着いてきた。

「っ琥珀……!」

震えるその肩をしっかりと抱いて、カヤは何度も何度も心で反芻した。

ねえ、ミズノエ。
同じだよ。吃驚するくらい、同じだったんだ。

「私も、ミズノエの腕の中が一番好き」

―――――ああ、やっと云えた。







「この石……どうしたの?」

ようやく二人の涙も止まった頃、カヤは髪飾の石を指で撫でながら尋ねた。

「北の崖で大人に貰ったんだ」

ミズノエは嬉しそうにそう言った。

「大切な女の子にあげたいんだ、って言ったら"しゅっせばらい"で良いよ、って言ってくれたんだ」

「しゅっせばらいって?」

「んー……良く分かんないから、今度兄様に聞いてみるよ。それでね、村の工芸師さんの所で、ずっとこれを作ってたんだ。僕、手先器用じゃないから、あんまり上手く出来なかったんだけど……」

恥ずかしそうに俯いたミズノエの指には、包帯が巻かれていた。

きっと髪飾を作っている時に怪我をしたのだろう。