「クンリク様」
ハヤセミの顔が視界に入り込んできた。
―――――嫌いな顔だ。
カヤは力無く視線を落とした。
ミズノエ以外の顔が視界に入って来るのは、とても嫌なのだ。
「……もう反応もしませんか。以前はあんなに睨みつけてきたと言うのに」
伸びてきた指に、頬を鷲掴まれる。
無理矢理に顔を上に向かされ、見たくはないハヤセミの顔がまた視界に映った。
「クンリク様。ミズノエを知りませんか。もう数日間ずっと姿が見えないのですが」
そんな事を尋ねられ、不確かな記憶を緩く辿ってみる。
そう言われれば、最近ミズノエの顔を見ていない気がした。
前までは、ずっとずっと傍にあったのに。どこへ行ったんだろう。
カヤの無言を、ハヤセミは返答と捉えたらしい。
「まあ、そうでしょうね」
溜息と共に、掴んでいた頬を放された。
強く掴まれたせいで、頬がじんじんと痛みを帯びているが、撫でる気にはならなかった。
「全く、こんな物言わぬ人間の何処が良いんだか。私にはさっぱり分かりませんねえ」
肩を竦めてハヤセミが部屋を出て行き、ぼんやりと感じていた不快感が少しずつ消えていく。
同時に、億劫ではあったが、カヤはここ最近の事を思考してみた。
思い返してみれば、こんなにミズノエが来ない事は初めてかもしれない、と思った。
そういえば、最後に会った時にミズノエが泣いていたな、と思った。
きっと私に呆れて何処かへ行ってしまったのかもしれない、とも思った。
カヤはゆっくりと顔を上げて、部屋を見回した。
カヤが動かなければ、物音一つすらしない静かな部屋だった。
窓の外では、さあさあと雨の音が聞こえる。
雨の時期に入ったのだろうか。空気がじめっと淀んでいる。
寂しいな、と感じた。
そんな事を今まで思った事が無かった。
今までそれを感じなかったのは、ミズノエが居たからなのかもしれない。
あの人が、カヤに根気強く喋りかけて、カヤを喜ばせようと色んな事をしてくれたから。
―――――独りだった。
ミズノエが居なければ、カヤは紛れも無く独りだ。
そして、ようやく悟る。
私は、私の弱さで、一番大切な人を失ってしまったのだと。
どれだけそのまま佇んでいたのか分からない。
「……琥珀っ……」
耳に心地の良い声が聞こえて、カヤはゆっくりと顔を上げた。
部屋の入口に、ミズノエが立っていた。
「ごめんね、ずっと会いにこれなくって」
息を切らせながら部屋に入ってきたミズノエは、ずいっ、と何かをカヤに差し出した。
「これを作ってたんだ」
――――その石を見た時、太陽みたいだ、と思った。
銀製の髪飾に付いているその石は黄色く透き通っていて、まるでお日様の光をぎゅっと凝縮させたような素敵な色をしていた。
