その日から、ミズノエは毎日のように部屋に遊びに来てくれた。

どうして今までそうしていなかったのか不思議に思うくらい、二人は空いた時間のほとんどを共に過ごした。

時に日が暮れるまでお喋りをして、時に喧嘩もしたりして、それでも次の日にはすぐ仲直りして、また飽きずに笑い合った。




「二人は本当に仲良しねえ」

カヤの部屋の窓から見える雲の形で、動物の当てっこをしていた二人は、そんなかか様の言葉に振り向いた。

いつの間にか、空はもう真っ赤に染まっている。

時間を忘れて遊んでいた二人を、かか様はニコニコと笑いながら見ていた。


「うん!仲良しなの!」

笑顔を返したカヤに、かか様は微笑むと、それから少し心配そうな表情をしてミズノエに視線を送った。

「貴方は毎日カヤの所に来てくれるけれど、大丈夫?ご家族に怒られない?」

その問いかけに、ミズノエはちょっとだけ俯いた。

「僕は、兄様と違って"出来損ない"だから……誰にも期待されていないので、全然大丈夫です」

その眉を下げた笑顔に、かか様は驚いたような、悲しむような表情を浮かべた。

「それは誰かがそう言ったの?」

「父上や王様が、よく僕の事をそう言います。僕は学も無いし、剣も弱いから……」

「まあ……なんて事を……」

息を呑んだかか様は、次の瞬間ミズノエを抱き締めた。

唐突にその胸に抱かれ、ミズノエが「え、え」と戸惑ったような声を漏らす。

かか様は、ミズノエの頭を優しく撫でながら、腕に力を込めた。

「貴方は出来損ないなんかじゃないわ。例え苦手な事があったとしても、貴方は誰にも負けない"優しさ"を持っているの」

「やさしさ……?」

「そうよ。それはね、幾ら努力しても持てないものよ。だから、胸を張って生きると良いわ」

かか様の肩に埋められていたミズノエの瞳が、泣きそうに揺らいだ。

恐る恐る、と言ったように、ミズノエの腕が上がって、そしてかか様の背中に回る。

ぎゅ、と衣を握ったミズノエの手に、かか様が優しい微笑みを浮かべた。

「ずるいずるい!カヤもぎゅってするー!」

なんだかそれが羨ましくて、カヤは二人に飛びついた。

「あらあら、もう。カヤったら」

可笑しそうに笑いながら、かか様を腕を上げて、カヤも抱き締めた。

かか様の腕の中で二人抱かれながら、カヤはミズノエに万遍の笑みを向けた。

「あのね、カヤ、ミズノエの事だーいすきだよ!かか様と同じくらい、大好き!」

「うん……ありがとう……」

そう言って笑ったミズノエの眼尻には、ちょっとだけ涙が溜まっていた。



温かかった。幸せだった。

大好きなかか様に守られながら、大好きなミズノエと笑い合える日々。

いつまでもいつまでも、こんな日が続くのだと思っていた。
そう信じて、一切疑わなかった。