初めてミズノエに会った時、彼は兄であるハヤセミの陰に隠れているような内気な子だった。
「お初にお目に掛かります、クンリク様。私はハヤセミと申します」
生まれ育った村から両親共々、砦に連れてこられてしばらく経った頃、カヤの前に現れた少年は、自分の事をそう名乗った。
彼は、代々この国の王に仕えてきた一家の嫡男だった。
切れ長の目が印象的なその少年は、厳しく躾けられたためか、幼い年齢だと言うにも関わらず、随分と落ち着いていた。
「それから、この者は私の弟で、ミズノエと申します。ほら、クンリク様にご挨拶しなさい」
ハヤセミの呼びかけに、小さな男の子が隠れていた兄の身体からヒョッコリと顔を覗かせた。
言われれば兄弟だと分かりそうだが、幼なさゆえの黒目がちの眼や、ふわふわとした柔らかそうな髪を見る限り、あまり兄と似ているとは言えない。
そんなミズノエは、興味深げにカヤをじーっと見つめた後、ビシ!と指を差した。
「へんな髪ー!」
その瞬間、ハヤセミの拳骨が弟の頭に振りかかった。
「馬鹿者!」
「いたい!」
ゴン!となかなかに良い音を立てて振りかかった拳に、ミズノエは頭頂部を押さえてしゃがみ込む。
そんな弟を睨み付け、ハヤセミは子供らしからぬ声色で言い放った。
「クンリク様は神の娘なんだ。失礼な口を聞くな」
「はあい……」
拗ねたように唇を尖らせ、ミズノエが気の抜けた返事をした。
カヤはと言うと『変な髪』と言われた事が衝撃的すぎて、苦笑いしているかか様の足にしがみ付いている事しか出来なかった。
ハヤセミの第一印象は、おっかない人。
そしてミズノエの第一印象は、失礼な人だった。
「あ、居た居たー」
隠れていた部屋の入口から、そんな間の伸びた声が聞こえてきた。
壁に背中を預けて膝を抱いていたカヤは、そちらを見やる。
「ミズノエ……?」
失礼な出会いをしてから早二年が経っていた。
あの日以来、ミズノエと顔を合わせていなかったカヤは、久しぶりの再会に思わず目を瞬かせた。
「覚えててくれたんだ。ありがと」
ニコニコと笑いながら、ミズノエはカヤに近づいてきた。
覚えていた、と言うよりも記憶が忘れてくれなかった、と言った方が近かった。
第一声で『変な髪』と言われれば、忘れてたくても覚えているに決まっている。
それに――――
「見つかって良かった。戻ろう?兄様に君を捜して来いって言われたんだ」
そう言って差し伸ばされた手に答えず、カヤはぷいっと顔を背けた。
「やだ。あの人嫌い。こわい」
神の娘とやらであるカヤの護衛には、幼いながらも腕の良いハヤセミが付く事が多かった。
あの時感じ取った第一印象の通り、ハヤセミはとてもおっかない人だった。
態度や言葉使い自体は完璧なまでに丁寧なのに、時折カヤに冷たい目を向けてくるのだ。
カヤはそんな得体の知れないハヤセミが、とても怖くて、とても嫌いだった。
「お初にお目に掛かります、クンリク様。私はハヤセミと申します」
生まれ育った村から両親共々、砦に連れてこられてしばらく経った頃、カヤの前に現れた少年は、自分の事をそう名乗った。
彼は、代々この国の王に仕えてきた一家の嫡男だった。
切れ長の目が印象的なその少年は、厳しく躾けられたためか、幼い年齢だと言うにも関わらず、随分と落ち着いていた。
「それから、この者は私の弟で、ミズノエと申します。ほら、クンリク様にご挨拶しなさい」
ハヤセミの呼びかけに、小さな男の子が隠れていた兄の身体からヒョッコリと顔を覗かせた。
言われれば兄弟だと分かりそうだが、幼なさゆえの黒目がちの眼や、ふわふわとした柔らかそうな髪を見る限り、あまり兄と似ているとは言えない。
そんなミズノエは、興味深げにカヤをじーっと見つめた後、ビシ!と指を差した。
「へんな髪ー!」
その瞬間、ハヤセミの拳骨が弟の頭に振りかかった。
「馬鹿者!」
「いたい!」
ゴン!となかなかに良い音を立てて振りかかった拳に、ミズノエは頭頂部を押さえてしゃがみ込む。
そんな弟を睨み付け、ハヤセミは子供らしからぬ声色で言い放った。
「クンリク様は神の娘なんだ。失礼な口を聞くな」
「はあい……」
拗ねたように唇を尖らせ、ミズノエが気の抜けた返事をした。
カヤはと言うと『変な髪』と言われた事が衝撃的すぎて、苦笑いしているかか様の足にしがみ付いている事しか出来なかった。
ハヤセミの第一印象は、おっかない人。
そしてミズノエの第一印象は、失礼な人だった。
「あ、居た居たー」
隠れていた部屋の入口から、そんな間の伸びた声が聞こえてきた。
壁に背中を預けて膝を抱いていたカヤは、そちらを見やる。
「ミズノエ……?」
失礼な出会いをしてから早二年が経っていた。
あの日以来、ミズノエと顔を合わせていなかったカヤは、久しぶりの再会に思わず目を瞬かせた。
「覚えててくれたんだ。ありがと」
ニコニコと笑いながら、ミズノエはカヤに近づいてきた。
覚えていた、と言うよりも記憶が忘れてくれなかった、と言った方が近かった。
第一声で『変な髪』と言われれば、忘れてたくても覚えているに決まっている。
それに――――
「見つかって良かった。戻ろう?兄様に君を捜して来いって言われたんだ」
そう言って差し伸ばされた手に答えず、カヤはぷいっと顔を背けた。
「やだ。あの人嫌い。こわい」
神の娘とやらであるカヤの護衛には、幼いながらも腕の良いハヤセミが付く事が多かった。
あの時感じ取った第一印象の通り、ハヤセミはとてもおっかない人だった。
態度や言葉使い自体は完璧なまでに丁寧なのに、時折カヤに冷たい目を向けてくるのだ。
カヤはそんな得体の知れないハヤセミが、とても怖くて、とても嫌いだった。