【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「カヤっ……?何故ここに?」

叫んだ声に気が付いたのか、翠がカヤを振り返った。

驚きの表情を浮かべている。
しかし、間違いなくカヤの方が数十倍も驚愕していた。

「翠様!このような事はお止め下さい!」

カヤは慌てて翠に駆け寄ると、訴えかけた。

何がどうなってこうなったのかは分からないが、今日ナツナを通じてカヤとミナトが会話をした事を、翠が知ってしまったのだと思ったのだ。

「お約束通り、ミナトと言葉は交わしていません!それに会いに行ったのは私の方からなんです!捕らえるなら、どうか私をっ……」

しかし、それは大きな勘違いだったらしい。

「ミナトに会いに行ったのか?」

「へ……?」

怪訝そうに顰められた眉を見て、カヤは言葉を途切れさせた。

その反応を見るに、翠はまるで、今日の出来事を知らないようだった。


「とにかくそこを退きなさい」

ぐいっ、と身体ごと押され、カヤは呆気なくよろめいた。

動揺して立ち尽くすカヤを、翠は横目で見据えてくる。
まるで睨むかのように。

「良いか、罪人を庇うような愚かな真似をするな」

侮蔑すらも感じられる声色に、言葉を失うしかなかった。

「ざ、いにん……?」

ぐらり。
頭が大きく揺らいだ。

どうして翠がミナトをそんな風に呼ぶのか分からなかった。

カヤ達が顔を合わせただけで罪になるなんて、どう考えても可笑しすぎる。

カヤは、翠の後方で立ち尽くしているタケルに詰め寄った。

「っタケル様!後生です!」

カヤがこれだけ可笑しいと思っているのに、どうしてタケルは、部下が拘束されているのを黙って見つめているのか。

「ミナトを放して下さい!お願いです!」

しかし信じがたい事に、タケルはカヤに揺さぶられながら、苦しそうに視線を落とした。

「……すまない、カヤ。無理なのだ」

「そ、んな……」

頼みの綱が消え失せ、カヤは失意と共にタケルから手を放した。

(まさかタケル様まで、翠の可笑しな考えに賛同してるの……?)

いや、待て――――――頭の片隅で、僅かばかり残っていた冷静な自分が声を上げた。

(何かが変だ。こんなの大げさすぎる)

罰を与えるにしても、こんな真夜中に、こんなに人が集まりそうな場所でだなんて、不自然だ。

(まるで、大罪人の見せしめみたいに……)


本当にミナトは『カヤとの会話を禁ずる』と言う約束を破っただけで、捕らえられているのだろうか?




「ミナトよ。この者に見覚えはあるか」

澱みない翠の声が響き渡る。

翠に視線を向けると、今まで動揺していて気が付かなかったが、彼の横には戸惑い顔の一人の男性が立っていた。

見知らぬ男性だ。カヤよりも少し年上だろうか。
質素な服装を見るに、ただの一般の民に見える。