「……えっ!」
その日、カヤがいつも通り畑にやってきた時だった。
「め、芽が出てる……!」
ちょこん、とそれはもう可愛らしく。
ナツナと初めて植えた種の箇所から、ぴょこぴょこと幾つかの芽が出ている事に気が付いたのだ。
慌てて近寄り、じっくりとその芽を見つめる。
青々とした色のその双葉は確かに青空に向かって伸びていこうとしていた。
嬉しくて嬉しくて、思わずその双葉を指でつつく。
(本当に芽が出るんだ……)
なかなか芽が出なかったから心配していた事もあり、言葉に出来ない感動が溢れる。
カヤは居ても立っても居られなくなり、結局荷物をまとめて村に戻る事にした。
すぐにでもナツナに報告したくて仕方なかったのだ。
去り際、最後にちらりと振り返ってもう一度その双葉を見る。
幻覚でも何でもなく、間違いなくその命の息吹は、小さな鼓動を宿していた。
(ナツナに何を作ってもらおう)
そんな気の早い事を考えながら、カヤは足取り軽く畑を後にした。
――――そして結局、カヤがその芽の成長を見られる日は来なかった。
自分の家の近くまで戻ってきたカヤは、すぐさま異変に気が付いた。
「……どうしたの……?」
「膳様……お咎めに……」
「ナツナが……あの金髪の……」
村人が大勢集まり、ひそひそと話をしていた。
皆、遠巻きに何かを見ているようだ。
高揚していた気持ちは一瞬で吹っ飛び、心臓が嫌な音を立て始めた。
「す、すいません、通して下さいっ……!」
嫌な予感がしたカヤは、人の壁を掻き分け皆の視線の中心地へ近づこうともがく。
村人達を押しのけようとする手には、じっとり汗を掻いていた。
そしてようやく人波をすり抜けたカヤが見たものは、
「ナ……ナツナ!」
膳の前にひれ伏すナツナの姿だった。
声を上げたカヤに気が付いたのか、膳がこちらに顔を向ける。
その瞬間、さも嬉しそうな笑みを浮かべカヤを指差してきた。
「おお、噂をすれば張本人が帰ってきたではないか!おい、そこの娘、はようこちらへ来い!」
そう声をかけられ、カヤは戸惑い半分、怒り半分で膳に近づいた。
「……何か御用ですか?ナツナに何をさせているんですか?」
地面に膝をつくナツナの横にしゃがみ、その背中を撫でながら膳に食って掛かる。
「カヤちゃん……」
泣きそうな瞳でこちらを見るナツナの声はとてもか細かった。
その表情を見ただけで、ナツナがどれだけ不安な思いをしていたのか分かってしまった。
「お主が何処に居るかをこの娘に聞いておっただけだ。しかし生意気にもお主の居場所を話そうとしないのでな」
「……だからって、膝を付かせる必要があるんですかね?」
「人聞きの悪い事を。この娘が頼んでもいないのに勝手に膝まづいただけの事だ」
はっはっはと腹立つ高笑いをする膳に、後方に居たガラの悪そうな数人の男達もわざとらしく笑った。
どうやら膳の取り巻き達らしい。
大方、カヤを庇ってくれたナツナを脅して、そうなるように仕向けたのだろう。
(……大の男が複数でよってたかって、よくもこんな事を)
その卑劣さに、自然と拳を握り締める。
「私に何の用ですか?」
未だに下品に笑っている膳を睨みつけながら、カヤは固い声でそう問いかけた。
すると膳はやっと笑みを引っ込め、そして冷たくカヤを見下ろした。
「娘、聞いたところによると最近森でコソコソ何かをしているようだな?」
その言葉に思わず頬が引きつる。
(なんでその事を……)
もしや毎日森へ向かうカヤの事を、誰かが密告したのかもしれない。
しかしミナト曰く、森の土地を耕すのは禁じられてはいないはずだ。
その日、カヤがいつも通り畑にやってきた時だった。
「め、芽が出てる……!」
ちょこん、とそれはもう可愛らしく。
ナツナと初めて植えた種の箇所から、ぴょこぴょこと幾つかの芽が出ている事に気が付いたのだ。
慌てて近寄り、じっくりとその芽を見つめる。
青々とした色のその双葉は確かに青空に向かって伸びていこうとしていた。
嬉しくて嬉しくて、思わずその双葉を指でつつく。
(本当に芽が出るんだ……)
なかなか芽が出なかったから心配していた事もあり、言葉に出来ない感動が溢れる。
カヤは居ても立っても居られなくなり、結局荷物をまとめて村に戻る事にした。
すぐにでもナツナに報告したくて仕方なかったのだ。
去り際、最後にちらりと振り返ってもう一度その双葉を見る。
幻覚でも何でもなく、間違いなくその命の息吹は、小さな鼓動を宿していた。
(ナツナに何を作ってもらおう)
そんな気の早い事を考えながら、カヤは足取り軽く畑を後にした。
――――そして結局、カヤがその芽の成長を見られる日は来なかった。
自分の家の近くまで戻ってきたカヤは、すぐさま異変に気が付いた。
「……どうしたの……?」
「膳様……お咎めに……」
「ナツナが……あの金髪の……」
村人が大勢集まり、ひそひそと話をしていた。
皆、遠巻きに何かを見ているようだ。
高揚していた気持ちは一瞬で吹っ飛び、心臓が嫌な音を立て始めた。
「す、すいません、通して下さいっ……!」
嫌な予感がしたカヤは、人の壁を掻き分け皆の視線の中心地へ近づこうともがく。
村人達を押しのけようとする手には、じっとり汗を掻いていた。
そしてようやく人波をすり抜けたカヤが見たものは、
「ナ……ナツナ!」
膳の前にひれ伏すナツナの姿だった。
声を上げたカヤに気が付いたのか、膳がこちらに顔を向ける。
その瞬間、さも嬉しそうな笑みを浮かべカヤを指差してきた。
「おお、噂をすれば張本人が帰ってきたではないか!おい、そこの娘、はようこちらへ来い!」
そう声をかけられ、カヤは戸惑い半分、怒り半分で膳に近づいた。
「……何か御用ですか?ナツナに何をさせているんですか?」
地面に膝をつくナツナの横にしゃがみ、その背中を撫でながら膳に食って掛かる。
「カヤちゃん……」
泣きそうな瞳でこちらを見るナツナの声はとてもか細かった。
その表情を見ただけで、ナツナがどれだけ不安な思いをしていたのか分かってしまった。
「お主が何処に居るかをこの娘に聞いておっただけだ。しかし生意気にもお主の居場所を話そうとしないのでな」
「……だからって、膝を付かせる必要があるんですかね?」
「人聞きの悪い事を。この娘が頼んでもいないのに勝手に膝まづいただけの事だ」
はっはっはと腹立つ高笑いをする膳に、後方に居たガラの悪そうな数人の男達もわざとらしく笑った。
どうやら膳の取り巻き達らしい。
大方、カヤを庇ってくれたナツナを脅して、そうなるように仕向けたのだろう。
(……大の男が複数でよってたかって、よくもこんな事を)
その卑劣さに、自然と拳を握り締める。
「私に何の用ですか?」
未だに下品に笑っている膳を睨みつけながら、カヤは固い声でそう問いかけた。
すると膳はやっと笑みを引っ込め、そして冷たくカヤを見下ろした。
「娘、聞いたところによると最近森でコソコソ何かをしているようだな?」
その言葉に思わず頬が引きつる。
(なんでその事を……)
もしや毎日森へ向かうカヤの事を、誰かが密告したのかもしれない。
しかしミナト曰く、森の土地を耕すのは禁じられてはいないはずだ。
