戸惑う様子を見せるナツナに、カヤはぎこちなく頷いた。
「うん。それはそうなんだけど……」
「いけませんよ、カヤちゃん」
そうきっぱりと言って、何かを察したらしいナツナはカヤの手首を掴んだ。
「翠様がお知りになれば、きっとお怒りになられます。確かにお辛い命令だとは思いますが、我慢しなければ」
「分かってるよ、でもどうしても言いたい事があって……!」
「っ駄目ったら駄目なのです!」
彼女らしからぬ声で叫んだナツナは、ハッと我に返ったように口元を覆った。
「……ナ、ナツナ……?」
カヤは大いに面食らった。
初めてだった。
ナツナがこんなにも感情を剥きだしにした事なんて、未だかつて一度も無かった。
そしてナツナもまた、叫んだ自分に動揺しているようだった。
彼女は、まるで自分を鎮めるように息を吐くと、ゆっくりと顔を上げた。
カヤを見つめる瞳は、いつも通り穏やかで包み込むような光を宿らせている。
「ねえ、カヤちゃん」と、ナツナは静かに言葉を紡いだ。
「カヤちゃんがお慕いしている方は、ミナトでは無いのですよね?」
予想だにしていなかった問いかけだった。
カヤは戸惑いつつも、小さく頷く。
ナツナに握られている手に、ぎゅっと手に力がこもったのを感じた。
「でしたら、お願いなのです。行っちゃいけません。このままではカヤちゃんもミナトも傷付きます」
「……ごめん、ナツナ。分からないよ。どうして私達が傷付く事になるの?」
その質問は、ナツナの眼に侘しさを浮かび上がらせてしまった。
何か言い方を間違えたのだろうか。
ナツナにそんな瞳をさせてしまった事が申し訳なくて、カヤは慌てて謝ろうとした。
「――――慕っているからなのです」
それは、とても芯のはっきりとした声だった。
揺らぐ瞳の物悲しさとは対照的に、迷いの無い。
口を半分開きかけた状態のまま、カヤは動きを止めた。
「ミナトはきっと、カヤちゃんを慕っているのです。お友達としてではありません。一人の女性としてです」
訴えかけるような声を、指の力を、痛いくらいに感じていた。
何も言わないカヤに、ナツナは泣いてしまいそうな眼で詰め寄る。
「カヤちゃんがミナトの想いに答えられないのなら、きっとミナトは哀しむでしょう。そうしたら優しいカヤちゃんも、必ず哀しみます。だったらこのままお二人とも、出会う前の何も無い関係に戻った方が良いと思うのです。私は、カヤちゃんもミナトも同じくらい大切なのです。二人には絶対にそんな思いをして欲しくないのです。だから……だから、どうか――――」
「違うよ、ナツナ」
カヤは、そっとナツナの肩を掴んだ。
「うん。それはそうなんだけど……」
「いけませんよ、カヤちゃん」
そうきっぱりと言って、何かを察したらしいナツナはカヤの手首を掴んだ。
「翠様がお知りになれば、きっとお怒りになられます。確かにお辛い命令だとは思いますが、我慢しなければ」
「分かってるよ、でもどうしても言いたい事があって……!」
「っ駄目ったら駄目なのです!」
彼女らしからぬ声で叫んだナツナは、ハッと我に返ったように口元を覆った。
「……ナ、ナツナ……?」
カヤは大いに面食らった。
初めてだった。
ナツナがこんなにも感情を剥きだしにした事なんて、未だかつて一度も無かった。
そしてナツナもまた、叫んだ自分に動揺しているようだった。
彼女は、まるで自分を鎮めるように息を吐くと、ゆっくりと顔を上げた。
カヤを見つめる瞳は、いつも通り穏やかで包み込むような光を宿らせている。
「ねえ、カヤちゃん」と、ナツナは静かに言葉を紡いだ。
「カヤちゃんがお慕いしている方は、ミナトでは無いのですよね?」
予想だにしていなかった問いかけだった。
カヤは戸惑いつつも、小さく頷く。
ナツナに握られている手に、ぎゅっと手に力がこもったのを感じた。
「でしたら、お願いなのです。行っちゃいけません。このままではカヤちゃんもミナトも傷付きます」
「……ごめん、ナツナ。分からないよ。どうして私達が傷付く事になるの?」
その質問は、ナツナの眼に侘しさを浮かび上がらせてしまった。
何か言い方を間違えたのだろうか。
ナツナにそんな瞳をさせてしまった事が申し訳なくて、カヤは慌てて謝ろうとした。
「――――慕っているからなのです」
それは、とても芯のはっきりとした声だった。
揺らぐ瞳の物悲しさとは対照的に、迷いの無い。
口を半分開きかけた状態のまま、カヤは動きを止めた。
「ミナトはきっと、カヤちゃんを慕っているのです。お友達としてではありません。一人の女性としてです」
訴えかけるような声を、指の力を、痛いくらいに感じていた。
何も言わないカヤに、ナツナは泣いてしまいそうな眼で詰め寄る。
「カヤちゃんがミナトの想いに答えられないのなら、きっとミナトは哀しむでしょう。そうしたら優しいカヤちゃんも、必ず哀しみます。だったらこのままお二人とも、出会う前の何も無い関係に戻った方が良いと思うのです。私は、カヤちゃんもミナトも同じくらい大切なのです。二人には絶対にそんな思いをして欲しくないのです。だから……だから、どうか――――」
「違うよ、ナツナ」
カヤは、そっとナツナの肩を掴んだ。
