秋の祭事が終わった次の日には、本格的に冬の寒さが到来した。


外に居るだけで凍えてしまうような気温の中、屋敷中が祭事の後片付けに追われた。

それはカヤも例外では無く、あまりの人手の無さをタケルに嘆かれ、さすがの翠もカヤが後片付けに駆り出される事を許可するしか無かった。

カヤは、春の祭事の時に比べて五倍はありそうな器を全て洗い、拭き、屋敷の蔵に片づける任を任された。

一人だった上に、冬場の凍りそうな水は肌に痛く、その冷たさに身もだえしながらどうにか全てを終わらせた頃には、既に祭事から丸々三日間は経っていた。






「……カヤ?」

「あ、はい!」

翠に呼ばれたカヤは、弾かれるように返事をした。


カヤは、つい昨日全ての器の後片付けが終わり、また今日から翠のお世話役の任に戻ってきていた。

全体的な後片付けは未だ残っているようだったが、任が終わったカヤは一足先に離脱させて貰ったのだ。


「ぼんやりしてたみたいだけど大丈夫か?顔赤いぞ」

心配そうに寄ってきた翠が、手の甲でカヤの頬に触れる。

「……熱くないか?体調崩してるんじゃないのか」

「ううん、大丈夫。部屋の中が温かいからだよ」

笑いながら、やんわりとその手を放した。

火鉢を起こした部屋の中は、ほんわりとした温かさに包まれていた。

「それなら良いけど」と気遣わし気にまた机仕事に戻っていく翠に、ほっと安堵の息を吐く。


(危なかった……)

実は昨晩あたりから、ほんのり身体が熱っぽかった。

まあ十中八九、三日間もあの極寒の中で、氷のような井戸の水に触れていたせいだろう。

とは言え元気だけが取り柄のカヤだ。
きっと明日明後日には全快しているに違いない。

そう自分に言い聞かせていると、翠が机に向かいつつ口を開いた。

「カヤ。祭事の後片付けやら何やらで最近稽古出来てないだろ。今日はもうして貰う事も無いから行って来な」

確かに翠の言う通り、ここ最近ずっと剣を振るえてなかった。

それに祭事の日以来、ミナトと顔を合わす事が出来ていなかった。

何となく変な別れ方をしてしまい気にかかっていたので、翠の申し出は有り難かった。

「分かったよ、ありがとう。じゃあ行ってきま……」

「あ、待った」

「へ?」

腰を上げかけたカヤは、突然翠に呼びかけられたため、そのままの体勢で固まった。

「今日は俺も行くよ」

そう言って立ち上がった翠に、カヤはパチパチと眼を瞬かせた。








「急に呼び出してしまってすまないな」

頬を差すような木枯らしが吹き荒ぶ中、広場の中心に三人は居た。

「いえ。とんでもございません」

ミナトが恭しく頭を下げる。

カヤは全身震えながら、全く寒さを感じさせない二人を戸惑いながら見つめた。