「さ、早く戻りな」
「……へ……?」
そう諭され、口からは間抜けな声が落ちてきた。
まさか。まさかとは思うが、ここまでしておいて、それを言うのか。
しかも自分からしてきたくせに!
真っ赤になりながら睨み付けるが、翠はそしらぬ顔でカヤの頭を撫ぜるのみ。
「まあまあ、そう睨むなって。カヤの気持ちは、よーく分かるけどまた今度な」
「なっ……なっ……」
「だから、さっきの可愛いおねだりは次の機会まで取っておいて……いって!」
翠の肩を懇親の力で殴ったカヤは、勢い良く立ち上がった。
「翠の馬鹿!変態!食べ過ぎてお腹壊しちゃえ!」
涙目で罵倒して、カヤは足音荒く翠の部屋を飛び出た。
笑い声と共に「楽しんで来いよー」と言う呑気な声が追いかけてきたが、腹が立ったので返事はしなかった。
(翠の馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!)
心の中でも翠に悪態を付きながら、カヤは廊下を足早に歩いた。
一体この火照りをどうしろと言うのだ。
その気が無いなら、あんな事してほしくなかった。
カヤは無意識に、先ほど翠の舌が触れた耳朶をぎゅっと握った。
本当はもっと翠に触れたい。
翠への愛しさを体現したい。
毎日のようにそんな事を思っていた。
絶対に絶対に口になんて出さないが。
しかし人の多い屋敷内では、翠に触れる事はどうにも難しかった。
現に、口付けを交わしたのさえ、国境の山で二人で一夜を共にした日が最後だ。
(また今度って、いつ……?)
切なさで泣きそうになってしまった。
叶うならもう一度、あの骨の髄まで溶け切るような、甘さが欲しかった。
「っわ!」
「うお!」
勢い良く廊下を曲がったカヤは、いきなり目の前に現れた大きな影に飛び上がった。
「ミ、ミナト?なんで此処に!?」
そこに居た見知った姿に、カヤは目を瞬いた。
外に居るはずのミナトが、何故屋敷内の、しかもこんな翠の私室近くに居るのか。
当然の疑問を口にすれば、ミナトは何処かバツが悪そうに頭を掻いた。
「あー……いや、ちょっとお前に用事が合って待ってた」
「へ?用事って……どうしてわざわざこんな所で待ってたの?」
「まあ、外だと騒がしいからな。あいつ等も居るし」
「あいつ等って……ナツナとユタの事?」
まるで二人が居ると困るとでも言うような物言いだ。
首を傾げたカヤの目の前に、ミナトは唐突に何かをズイッと差し出した。
「わっ」
「これ、やる」
短く言われ、その『何か』を見下ろしたカヤは、丸々数秒間は固まった。
「……………え?」
それは髪飾だった。
(ミナトが、私に……?)
何かの間違いでは無いのだろうか。
彼がカヤに贈り物をするはずが無い。
呆然としてしまって何も言葉を発せないカヤの手に、痺れを切らしたらしいミナトが髪飾を押し付けてきた。
「だから、やるって言ってんだ。さっさと受け取れ馬鹿」
「ちょ、ちょっと待って、何いきなり!?て言うか、これって……この石って……」
意図せずに受け取ってしまった髪飾を見下ろしたカヤは、言葉を萎ませた。
「……へ……?」
そう諭され、口からは間抜けな声が落ちてきた。
まさか。まさかとは思うが、ここまでしておいて、それを言うのか。
しかも自分からしてきたくせに!
真っ赤になりながら睨み付けるが、翠はそしらぬ顔でカヤの頭を撫ぜるのみ。
「まあまあ、そう睨むなって。カヤの気持ちは、よーく分かるけどまた今度な」
「なっ……なっ……」
「だから、さっきの可愛いおねだりは次の機会まで取っておいて……いって!」
翠の肩を懇親の力で殴ったカヤは、勢い良く立ち上がった。
「翠の馬鹿!変態!食べ過ぎてお腹壊しちゃえ!」
涙目で罵倒して、カヤは足音荒く翠の部屋を飛び出た。
笑い声と共に「楽しんで来いよー」と言う呑気な声が追いかけてきたが、腹が立ったので返事はしなかった。
(翠の馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!)
心の中でも翠に悪態を付きながら、カヤは廊下を足早に歩いた。
一体この火照りをどうしろと言うのだ。
その気が無いなら、あんな事してほしくなかった。
カヤは無意識に、先ほど翠の舌が触れた耳朶をぎゅっと握った。
本当はもっと翠に触れたい。
翠への愛しさを体現したい。
毎日のようにそんな事を思っていた。
絶対に絶対に口になんて出さないが。
しかし人の多い屋敷内では、翠に触れる事はどうにも難しかった。
現に、口付けを交わしたのさえ、国境の山で二人で一夜を共にした日が最後だ。
(また今度って、いつ……?)
切なさで泣きそうになってしまった。
叶うならもう一度、あの骨の髄まで溶け切るような、甘さが欲しかった。
「っわ!」
「うお!」
勢い良く廊下を曲がったカヤは、いきなり目の前に現れた大きな影に飛び上がった。
「ミ、ミナト?なんで此処に!?」
そこに居た見知った姿に、カヤは目を瞬いた。
外に居るはずのミナトが、何故屋敷内の、しかもこんな翠の私室近くに居るのか。
当然の疑問を口にすれば、ミナトは何処かバツが悪そうに頭を掻いた。
「あー……いや、ちょっとお前に用事が合って待ってた」
「へ?用事って……どうしてわざわざこんな所で待ってたの?」
「まあ、外だと騒がしいからな。あいつ等も居るし」
「あいつ等って……ナツナとユタの事?」
まるで二人が居ると困るとでも言うような物言いだ。
首を傾げたカヤの目の前に、ミナトは唐突に何かをズイッと差し出した。
「わっ」
「これ、やる」
短く言われ、その『何か』を見下ろしたカヤは、丸々数秒間は固まった。
「……………え?」
それは髪飾だった。
(ミナトが、私に……?)
何かの間違いでは無いのだろうか。
彼がカヤに贈り物をするはずが無い。
呆然としてしまって何も言葉を発せないカヤの手に、痺れを切らしたらしいミナトが髪飾を押し付けてきた。
「だから、やるって言ってんだ。さっさと受け取れ馬鹿」
「ちょ、ちょっと待って、何いきなり!?て言うか、これって……この石って……」
意図せずに受け取ってしまった髪飾を見下ろしたカヤは、言葉を萎ませた。
