言葉は無かった。
しかし、かつて同じ望みを描いた二人が、時を超えて繋ぎ合ったのが確かに分かった。
「――――貴女様の意志が、どう実を結び、花開いたのかを」
果てしなき終わりの無い泥濘に沈む、その無謀とも言える意志を。
光に溢れた世界に輝く、一筋の澄み切った意志を。
「どうにか首の皮一枚繋がったな」
審議が幕を閉じた頃には、すっかり夜更けになっていた。
二人で翠の部屋に帰ってきた途端、彼は冗談めいたようにそう言った。
わざとだろう。きっとカヤが痛むような眼をしていたからだ。
「翠……髪、良かったの……?せっかく綺麗だったのに……」
全ては翠の思惑通りに運んだだろうに。
しかし、乱雑に千切れてしまった彼の髪を見ると、手放しでは喜べなかった。
「俺の髪なんてどうでも良いよ」
これっぽっちも残念がっていないような声色でそう言って、そして翠は慰めるようにカヤの頭を撫でる。
「……これでやっとすっきりした」
小さな蝋の灯りだけが灯る薄暗い部屋の中、翠の瞳が少し陰った気がした。
慈しむような指先は、カヤの短い毛先をそっと掬っている。
「……まさか……気にしてたの?ずっと?」
信じられない思いで尋ねれば、翠が苦笑いを零した。
「そりゃあな」
哀しそうな微笑みを見て、苦しさとも嬉しさとも付かない感情が込み上げてきた。
翠は隣国でカヤの髪を切った事を、ずっと悔やんでいたのだ。
(私を救うためにしてくれた事なのに)
お願いだから、気にしないで、と。
そう言おうとしたけれど、優しい翠はきっとカヤの言う事は聴いてくれないだろう。
それなら。
「……三年後は、私達の髪、きっと同じくらいの長さかな。楽しみだね!早く伸びないかなぁ」
代わりに万遍の笑みを向ける。
大げさすぎる笑顔だと翠は分かっているだろうが、それでもその眼尻が穏やかに緩んだから、良しとしよう。
「ありがとう、カヤ」
抱き締めてくれた腕の中で、カヤは何ら偽りの無い笑顔を浮かべた。
「……ああ、そう言えば」
カヤを抱いていた翠が、ふと何かを思い出したかのような声を上げた。
カヤから身体を放した翠は、懐を漁ると一振の短剣を取り出した。
正に先ほど、翠の髪を切り落とした短剣だ。
「翠、そんな短剣持ってたんだね」
「うん。普段はコレがあるから、あまり持ち歩かないんだけどな」
翠の腰に差さる護身用の剣を見下ろしながら言う。
カヤは、目の前の短剣をまじまじと見つめた。
短剣の柄部分には、薄緑色のつるりとした石が埋め込まれている。
しかし、かつて同じ望みを描いた二人が、時を超えて繋ぎ合ったのが確かに分かった。
「――――貴女様の意志が、どう実を結び、花開いたのかを」
果てしなき終わりの無い泥濘に沈む、その無謀とも言える意志を。
光に溢れた世界に輝く、一筋の澄み切った意志を。
「どうにか首の皮一枚繋がったな」
審議が幕を閉じた頃には、すっかり夜更けになっていた。
二人で翠の部屋に帰ってきた途端、彼は冗談めいたようにそう言った。
わざとだろう。きっとカヤが痛むような眼をしていたからだ。
「翠……髪、良かったの……?せっかく綺麗だったのに……」
全ては翠の思惑通りに運んだだろうに。
しかし、乱雑に千切れてしまった彼の髪を見ると、手放しでは喜べなかった。
「俺の髪なんてどうでも良いよ」
これっぽっちも残念がっていないような声色でそう言って、そして翠は慰めるようにカヤの頭を撫でる。
「……これでやっとすっきりした」
小さな蝋の灯りだけが灯る薄暗い部屋の中、翠の瞳が少し陰った気がした。
慈しむような指先は、カヤの短い毛先をそっと掬っている。
「……まさか……気にしてたの?ずっと?」
信じられない思いで尋ねれば、翠が苦笑いを零した。
「そりゃあな」
哀しそうな微笑みを見て、苦しさとも嬉しさとも付かない感情が込み上げてきた。
翠は隣国でカヤの髪を切った事を、ずっと悔やんでいたのだ。
(私を救うためにしてくれた事なのに)
お願いだから、気にしないで、と。
そう言おうとしたけれど、優しい翠はきっとカヤの言う事は聴いてくれないだろう。
それなら。
「……三年後は、私達の髪、きっと同じくらいの長さかな。楽しみだね!早く伸びないかなぁ」
代わりに万遍の笑みを向ける。
大げさすぎる笑顔だと翠は分かっているだろうが、それでもその眼尻が穏やかに緩んだから、良しとしよう。
「ありがとう、カヤ」
抱き締めてくれた腕の中で、カヤは何ら偽りの無い笑顔を浮かべた。
「……ああ、そう言えば」
カヤを抱いていた翠が、ふと何かを思い出したかのような声を上げた。
カヤから身体を放した翠は、懐を漁ると一振の短剣を取り出した。
正に先ほど、翠の髪を切り落とした短剣だ。
「翠、そんな短剣持ってたんだね」
「うん。普段はコレがあるから、あまり持ち歩かないんだけどな」
翠の腰に差さる護身用の剣を見下ろしながら言う。
カヤは、目の前の短剣をまじまじと見つめた。
短剣の柄部分には、薄緑色のつるりとした石が埋め込まれている。
