「急な召集にも関わらず、お集まり頂き感謝する」
タケルの迅速な伝令により、月が真上に昇った頃には、全ての高官が審議場に集まった。
高官達がズラリと並ぶ部屋の上座側で、感謝の言葉と共に頭を下げた翠は居住まいを正した。
翠の背後にはタケルと、そしてなんと珍しい事にミナトが控えていた。
念のためだ――――と翠は良く分からない事を言っていたが、真意は定かでは無い。
現にミナトも『何故俺が?』と言ったような戸惑い顔で座している。
カヤはと言うと、三人とは真反対側の部屋の一番下手側で、壁に同化するようにして座っていた。
「ようやく婿を迎える気にでもなられたのですかな?」
一番に口を開いたのは桂だった。
和やかな表情を浮かべているとは言い難い高官達の中で、桂がぶっちぎりに厳しい面持をしていた。
「先日は我が娘が大変お世話になりましたな。側仕えには、あの娘をお選びになったとの事ですが」
桂がじろりとこちらに視線を送ってきたので、カヤは肩を強張らせた。
他の高官達も横目でカヤを見やる。
冷ややかな視線にチクチクと刺され、あまりの居心地の悪さに俯きかけた時、翠が口を開いた。
「伊万里の件はすまなかったな、桂」
また全員の視線がそちらを向いたので、カヤはほっと息を吐いた。
「とんでもございません」
全く持って"とんでもございません"とは思っていないような声色で桂は言う。
「ですが、今度はまともなお話を期待しておりますぞ。貴女様は少々特異なお考えをされるようですので」
場の温度が目に見えて下がった。
伊万里よりもカヤを側付きに選んだ翠を"異常"だと言わんばかりの物言いだ。
桂が翠に対して好意的な感情を持っていないのは明白だった。
こんな最悪とも言える状況で、翠は一体どんな話をどう切り出すつもりなのだろうか。
冷や汗をかき出したカヤの目の前で、翠はわざとらしく溜息を吐いた。
「そうか。では残念ながら、その期待を裏切ってしまう事になるな」
「……と、申しますと?」
ひやりと声を低くした桂に、翠は完璧とも言えるな微笑みを返した。
「婿は取らない。退任もしない。私は今までと変わらずこの国を治め続ける事に決めた」
あまりにも朗らかに翠が言うので、桂は一瞬呆気に取られたような顔をした。
「お戯れを仰られるな!」
そんな言葉が飛んできて、全員がそちらを向いた。
鋭く言い放ったのは、桂の隣に座る結髪の高官だった。
以前の審議の時、力が無くなった事を告げた翠に、一番に退任を要求した高官だ。
