「きっと私の力量がカヤ様に遠く及んでいないのでしょう。これからも精進する事に致します」

しっかりと宣言した伊万里の言葉が、事更に胸に痛かった。

ここまで翠を思っていて、ここまで翠と並ぶに相応しい彼女に、そんな言葉を投げかけられてしまった事が、酷く。


「そんな……私なんか、伊万里さんと比べる価値すら……」

俯くカヤに、伊万里はふわりと眼尻を緩めた。

「全くもってそんな事はありません。是非とも胸を張って下さいね」

「それではそろそろ失礼致します」とカヤに頭を下げ、伊万里はその場を去って行った。


綺麗に背筋を伸ばして歩いていく背中を見つめながら、カヤは切なさに眉を歪めた。

――――伊万里がもっと嫌な子だったら、どれだけ良かっただろう。








伊万里を見送った後、カヤは翠の部屋の前まで来た。
目の前には分厚い布が掛かり、部屋の中を隠している。

それを良い事に、何度も何度も深呼吸を繰り返した。
緊張していた。翠に会う事も、翠に言う事も、すべて。


(……まずは謝る。絶対謝る……よし、行こう)

意を決して布に手を掛けた時だった。

バサッ――――内側から勢い良く布が捲り上がった。

「わ!?」

飛び上がったカヤの目の前には、まさかの翠が立っていた。

「えっ、あ……す、翠っ……?」

翠は布を捲った格好のまま、眼を見開きカヤを見つめている。

カヤと同じくらい、翠も驚いているのが分かった。

とにかく謝らねば――――いの一番にそれが頭に浮かび、カヤは慌てながら口を開いた。

「あのっ……この前はごめん……」

なさい、と言いきることが出来なかった。

翠の眼尻がゆるりと力無く緩んで、

「ッカヤ……」

伸びてきた腕に、あっという間に身体を攫われたから。


ぎゅう、と優しい翠とは思えないほどの力で抱き締められ、カヤはその背中に腕を回す事すら出来ない。

不本意なほど乱暴に掻き抱かれていると言うのに、しかし馬鹿な心臓は嬉さで跳ね上がってしまった。


「……ごめん、三日間も不安な思いさせて」

腕の力を一切緩める事も無く、翠はそう耳元で囁く。

「やっと会えた。長かった……ずっと会いたかった……」

震えを纏った声が鼓膜に届いた瞬間、胸を掻き毟りたいような衝動に駆られた。

安堵したのだ。

翠の事を考えないように必死に剣を振るっていたこの三日間を、カヤもまるで永遠のように感じていたから。