壊れてしまったように泣き続けるカヤの耳に、ミナトが小さく溜息を付いたのが分かった。

(ああ、困ってる)

こんな馬鹿みたいに泣いて、ミナトを困らせてしまっている。
そんな申し訳無さに、また涙が零れてしまった。


――――とん、と後頭部に温かな感触を感じた。


驚いたカヤは顔を覆っていた掌を退かし、更に驚いた。

ミナトの逞しい右腕が、後ろからカヤの頭を抱き、引き寄せていた。


「……あのなあ」

呆れたような、けれど優しさを携えた低い声が、耳元で響く。

「何悩んでるのかは知らねえけど、あの不細工な笑顔は止めとけ。似合ってねえ」

割と直球な悪口に、カヤは思わず笑ってしまった。

「不細工って……酷いなあ」

「仕方ねえ。不細工なもんは不細工だ」

辛辣な言葉を投げかけつつも、ミナトの右手はカヤの前髪を柔く撫でる。
大きくて無骨な手の感触に、心地いい安堵感を得た。


カヤは、涙が流れ続ける事にも、ミナトに撫でられる事にも抵抗せず、身を委ねる事にした。

「それからな、喚きたくなったらとりあえず俺に声掛けとけ。お前、もう俺の前で泣いてんだし十回も百回も変わんねえだろ」

冗談めいたようにミナトは言ったけれど、きっと本心で言ってくれているのだと分かった。
ミナトは優しいのだ。そういう人なのだと分かっている。

「……今から泣くから付き合って、って言えば良いの?」

少し笑いながら問えば、ミナトはすぐに返答した。

「まあ、そういう事になるな」

「……今以上に不細工な顔で泣いても引かない?」

「おう。引くかもしれねえけど態度には出さないでいてやるよ」

「えー……それも嫌だなあ……」

カヤが肩を揺らすと、ミナトも後ろで笑う気配がした。

しばらくクスクスと笑い合って、それからそれも落ち着いた頃、ミナトが再び口を開いた。

「一応言っておくけど、俺は別にお前の髪嫌いじゃねえぞ。目立つから見つけやすいし」

「何それ」と言いながも、カヤは自然と頬を緩ませた。

素直に嬉しかった。
誰かに髪を否定されないという事は、自分が思っていたよりも随分と嬉しい事だった。


「まあ次は伸ばせよ。長い方が似合ってた」

「……うん……ありがとう、ミナト」

「おう」

「……っ本当に、ありがとう、ねっ……」

じわり、と視界が滲む。
水の膜に覆われて、ゆらゆらとたゆんで、形を成さなくなって。


何もかもが見えなくなった世界の中、ただただミナトの掌の温かさだけを、強く感じていた。