『次の神官がカヤのような見目では困るのです』

『あいつが厄災持ち込んだに決まってるのにな』

『私、翠様のお世話役の任を頂戴したのでございます』

『伊万里には世話役の仕事を試しにしてもらう事にした』

脳裏に浮かぶ言葉達は、無自覚にこの心を引っ掻いていった言葉達。

大好きな翠の言葉でさえ、この喉をしめやかに絞めた。



(私なんかに、そんな事を言ってくれるの)

黒く煤けてしまった鼓膜を、たった三文字の賛美が浄化してくれた。

心の底から嬉しかった。
疎まれるだけのこの髪を、無邪気に褒めてくれた事が。


そして同時に愕然とした。


(私の子供は誰からも愛されない)

そんな子を、どうして産むことが出来よう?
出来るわけがない。結果は決まっていた。

――――私は、私の愛おしい存在を、一生腕に抱く事は無いのだ。

それは、ぞっとするような絶望だった。





「カヤ様っ……!?」

サヨが仰天したように叫ぶ。
ぽろぽろと、気が付けば両目から大量の涙が溢れ出ていた。

「ご、ごめんなさい、あの、抱っこさせて頂いてありがとうございましたっ……!」

カヤは慌ててトバリをサヨに返すと、必死に涙を拭う。
ヤガミが心配そうに顔を覗き込んできた。

「大丈夫ですか?どうされました?」

「いえ、えっと、あんまりにも可愛くて……あと嬉しくて、思わずっ……」

言っている内にも次から次へと涙が零れ落ちて行く。
どうにか止めようとしたが、もう駄目だった。

「……っ、ごめん、なさい……」

遂に両手で顔を覆ってしまったカヤに、三人とも困り果てたような表情を浮かべた。


「……えーっと……ではミナト様。後はよろしくお願いします」

「は!?」

「さあ行こうか、サヨ」

「え、ええ……」

ヤガミは気遣わし気なサヨの背中に手を沿えると、そそくさとその場を去って行った。


(しまった……二人に心配させてしまった……)

ぐずぐずと鼻を鳴らし自己嫌悪に陥るカヤの肩に、ミナトがそっと触れてきた。

「……おい、大丈夫かよ?」

「ごめ……全っ然大丈夫……」

カヤは思わずミナトに背中を向けた。

大丈夫と答えたものの、全然大丈夫じゃないのは自分で良く分かっていた。

まるで抑えつけていた何かが一気に溢れ出てきているようだった。