「私の事は気にしなくて良いのだよ。ひとまず楽しかったなら何よりだ」
翠は、伊万里が整えきれなかった後ろ髪を優しく撫で付けてあげていた。
黒と言う色が白を浮きだたせるのはどうしてだろう。
翠の指は、伊万里の髪に触れている時がことさらに美しいのだと、そう気が付いてしまった。
さわさわと揺れるススキが、二人を緩く隠しては、また見せる。
一生隠し続けてくれれば良いのに。こんな、美しくて優しい光景。
一行はカヤ達に気が付く事なくゆっくり通り過ぎて行き、やがて見えなくなった。
「……おい……おい、大丈夫か?」
ひらひらとミナトが目の前で手を振ってくるまで、カヤはその場に立ち尽くしていた。
「へっ?ああ、うん。大丈夫大丈夫。残りのお団子食べよっか」
慌てて笑ったカヤは、再びその場に腰を下ろした。
訝し気な表情をしつつも、ミナトも隣に座って来る。
「さすがは伊万里さんだね。凄いや、翠様の馬に乗れるなんて」
食べかけの団子を口に運びながら、カヤは賞賛を口にした。
カヤと翠が同じ馬に乗る事は、きっと出来るだろう。
けれどそれが出来るのは、誰も居ない時。二人きりの時。
ああして多くの眼がある中、翠と同じ馬に乗る事を許されるのは、伊万里が伊万里だからだ。
「やっぱり私みたいな髪の世話役より、伊万里さんみたいな人が世話役になるべきなんだろうねえ」
笑いながらまた一口、団子を頬張る。
するとミナトの骨ばった指が伸びてきて、カヤの頬に触れた。
「……ふえ?」
団子を咥えたまま呆けたようにミナトを見つめる。
彼の視線は、カヤの口元に注がれていた。
「髪、団子にくっ付いてる」
そんな声と共に、ミナトの指がカヤの横髪を掴んだ気配がした。
どうやら髪を取ってくれたらしい。
「あ、申し訳ない……」
男性に指摘されるとは、我ながら情けない。
慌てて団子から口を放して謝るが、しかしミナトの指は役目を終えても離れて行かなかった。
「……ミナト?」
随分と短くなってしまった毛先に、じっと指を添えて。
乱暴に切ったせいでざんばらになってしまったから、あまり見ないで欲しいのに。
「やっぱりそれが原因で切ったのか」
「へっ?」
脈絡の無かった言葉に、カヤは素っ頓狂な声を上げてしまった。
ミナトの指も眼も、その場から動かない。
注がれる双眸の距離は近く、カヤの金髪が映り込んで、いつもより少しだけ黄色みがかっていた。
「持って産まれた物を否定したくなる程、しんどい事があったのか?」
寂しく枯れ行くススキが、ざあ、と風に揺れて、音を立てた。
「あるわけないよ」と言いかけたのに、意に反して言葉を呑みこんでしまった。
翠は、伊万里が整えきれなかった後ろ髪を優しく撫で付けてあげていた。
黒と言う色が白を浮きだたせるのはどうしてだろう。
翠の指は、伊万里の髪に触れている時がことさらに美しいのだと、そう気が付いてしまった。
さわさわと揺れるススキが、二人を緩く隠しては、また見せる。
一生隠し続けてくれれば良いのに。こんな、美しくて優しい光景。
一行はカヤ達に気が付く事なくゆっくり通り過ぎて行き、やがて見えなくなった。
「……おい……おい、大丈夫か?」
ひらひらとミナトが目の前で手を振ってくるまで、カヤはその場に立ち尽くしていた。
「へっ?ああ、うん。大丈夫大丈夫。残りのお団子食べよっか」
慌てて笑ったカヤは、再びその場に腰を下ろした。
訝し気な表情をしつつも、ミナトも隣に座って来る。
「さすがは伊万里さんだね。凄いや、翠様の馬に乗れるなんて」
食べかけの団子を口に運びながら、カヤは賞賛を口にした。
カヤと翠が同じ馬に乗る事は、きっと出来るだろう。
けれどそれが出来るのは、誰も居ない時。二人きりの時。
ああして多くの眼がある中、翠と同じ馬に乗る事を許されるのは、伊万里が伊万里だからだ。
「やっぱり私みたいな髪の世話役より、伊万里さんみたいな人が世話役になるべきなんだろうねえ」
笑いながらまた一口、団子を頬張る。
するとミナトの骨ばった指が伸びてきて、カヤの頬に触れた。
「……ふえ?」
団子を咥えたまま呆けたようにミナトを見つめる。
彼の視線は、カヤの口元に注がれていた。
「髪、団子にくっ付いてる」
そんな声と共に、ミナトの指がカヤの横髪を掴んだ気配がした。
どうやら髪を取ってくれたらしい。
「あ、申し訳ない……」
男性に指摘されるとは、我ながら情けない。
慌てて団子から口を放して謝るが、しかしミナトの指は役目を終えても離れて行かなかった。
「……ミナト?」
随分と短くなってしまった毛先に、じっと指を添えて。
乱暴に切ったせいでざんばらになってしまったから、あまり見ないで欲しいのに。
「やっぱりそれが原因で切ったのか」
「へっ?」
脈絡の無かった言葉に、カヤは素っ頓狂な声を上げてしまった。
ミナトの指も眼も、その場から動かない。
注がれる双眸の距離は近く、カヤの金髪が映り込んで、いつもより少しだけ黄色みがかっていた。
「持って産まれた物を否定したくなる程、しんどい事があったのか?」
寂しく枯れ行くススキが、ざあ、と風に揺れて、音を立てた。
「あるわけないよ」と言いかけたのに、意に反して言葉を呑みこんでしまった。
