「皆の者、貴重なご意見感謝する。だが相手は自分で選ぶつもりだ。お心遣いは無用……」
はっきりと遠慮した翠の言葉を、高官達は驚くほどに聞いていなかった。
「いえいえ、我らが翠様の婿の座に、何処の馬の骨とも知れぬ男が付くわけにも行きませぬよ」
「ええ、ええ、そうです。安心して私共にお任せ下さい」
「話は戻りますが、私の息子なら胸を張って婿に入れる事が出来ますぞ―――――」
永遠に終わりそうにない婿合戦に、カヤとミナトは複雑な思いで顔を見合わせたのだった。
翠とタケルが部屋に戻ってきたのは、とっぷりと日が暮れた頃だった。
「……全くもって話が進みませんでしたな……」
「……まあ分かっていた事ではあるけどな……って、カヤ?帰ってなかったのか?」
ぼそぼそと話しながら部屋に入ってきた二人は、正座して待っていたカヤを見て驚いていた。
結局ミナトと共に審議が終わるまで窓の下に居たカヤは、解散の号令と共に先回りして部屋に戻ってきていたのだ。
「おかえりなさいませ。あの……勝手に帰るのも如何かと思いまして、念のため……」
「そうか、それは悪かったな。もう遅いから帰りな」
すまなそうに言った翠の顔には疲労の色が浮かんでいた。
その後ろに居るタケルも、勿論同様だ。
二人が疲れている理由が、ずっと審議を盗み聞いていたカヤには良く分かった。
あの後、騒ぐ高官達をタケルが鎮め、どうにか今後の話し合いに議題を持って行ったのだが――――まあ見事なほどに事態は進展しなかった。
力を失ったのだから、すぐにでも神官を退任すべきだと言う意見の高官達。
そして、今すぐの退任では混乱が起きるだろうから、もう少し待つべきだと言う意見の高官達。
見事なまでに対立している両者の話が混ざり合う事は無く、延々と平行線を辿ったのだ。
しかし恐らく何よりも二人を疲弊させたのは、どちらの高官達からも、事あるごとに婿を推す声が上がってきた事だろう。
おかげで審議は散々中断され、なかなかまともな話し合いが出来なかったのだ。
あれ程までに婿を推してくる者達の腹の内は、まあ明白だった。
翠の婿の座に自分の血縁の者を置く事で、今以上の権力を得たいのだ。
カヤは全く知らなかったのだが、どうやら高官達の中には、翠の治世を良く思っていない者達が居るようだった。
『―――――翠様は争いがお嫌いだからな。その気になれば近隣の小国ぐらい支配下に置けるのに、それをしない。爺さん共も、じれったく思ってたんだろ』
二人で隠れている時、そうミナトは零していた。
それを聞いて、何故翠が今すぐの退任を望まないのかが分かった気がした。
強行派の高官達が実権を握れば、この国の兵力に物を言わせて、次々と近隣諸国に戦を仕掛けていくだろう。
確かにこの大国ならば、同じくらい大きな弥依彦の国にでも戦を挑まない限り、順調に勝利して領土を拡大していけるのかもしれない。
はっきりと遠慮した翠の言葉を、高官達は驚くほどに聞いていなかった。
「いえいえ、我らが翠様の婿の座に、何処の馬の骨とも知れぬ男が付くわけにも行きませぬよ」
「ええ、ええ、そうです。安心して私共にお任せ下さい」
「話は戻りますが、私の息子なら胸を張って婿に入れる事が出来ますぞ―――――」
永遠に終わりそうにない婿合戦に、カヤとミナトは複雑な思いで顔を見合わせたのだった。
翠とタケルが部屋に戻ってきたのは、とっぷりと日が暮れた頃だった。
「……全くもって話が進みませんでしたな……」
「……まあ分かっていた事ではあるけどな……って、カヤ?帰ってなかったのか?」
ぼそぼそと話しながら部屋に入ってきた二人は、正座して待っていたカヤを見て驚いていた。
結局ミナトと共に審議が終わるまで窓の下に居たカヤは、解散の号令と共に先回りして部屋に戻ってきていたのだ。
「おかえりなさいませ。あの……勝手に帰るのも如何かと思いまして、念のため……」
「そうか、それは悪かったな。もう遅いから帰りな」
すまなそうに言った翠の顔には疲労の色が浮かんでいた。
その後ろに居るタケルも、勿論同様だ。
二人が疲れている理由が、ずっと審議を盗み聞いていたカヤには良く分かった。
あの後、騒ぐ高官達をタケルが鎮め、どうにか今後の話し合いに議題を持って行ったのだが――――まあ見事なほどに事態は進展しなかった。
力を失ったのだから、すぐにでも神官を退任すべきだと言う意見の高官達。
そして、今すぐの退任では混乱が起きるだろうから、もう少し待つべきだと言う意見の高官達。
見事なまでに対立している両者の話が混ざり合う事は無く、延々と平行線を辿ったのだ。
しかし恐らく何よりも二人を疲弊させたのは、どちらの高官達からも、事あるごとに婿を推す声が上がってきた事だろう。
おかげで審議は散々中断され、なかなかまともな話し合いが出来なかったのだ。
あれ程までに婿を推してくる者達の腹の内は、まあ明白だった。
翠の婿の座に自分の血縁の者を置く事で、今以上の権力を得たいのだ。
カヤは全く知らなかったのだが、どうやら高官達の中には、翠の治世を良く思っていない者達が居るようだった。
『―――――翠様は争いがお嫌いだからな。その気になれば近隣の小国ぐらい支配下に置けるのに、それをしない。爺さん共も、じれったく思ってたんだろ』
二人で隠れている時、そうミナトは零していた。
それを聞いて、何故翠が今すぐの退任を望まないのかが分かった気がした。
強行派の高官達が実権を握れば、この国の兵力に物を言わせて、次々と近隣諸国に戦を仕掛けていくだろう。
確かにこの大国ならば、同じくらい大きな弥依彦の国にでも戦を挑まない限り、順調に勝利して領土を拡大していけるのかもしれない。
