多くの爺たちが、皺に埋もれた鋭い眼で翠を見据えている。

カヤの何倍も長く生きている高官達は、ほとんどが先代の神官――――つまり、翠のお母様の時代から屋敷に仕えてきた人達だそうだ。

実力、家柄共に優れており、かつ彼らは、その地位に昇り詰めるため、若い頃から身を粉にして努力してきた人間だ。

正に何千、何万と言うこの国の民から選ばれた先鋭者達なのだ。

――――甘い意見が通るような人物で無いのは、カヤでさえ良く分かる。




「単刀直入に申し上げる」

厳しい視線を一心に受けつつ、翠はぐるりと高官達に視線を巡らせる。

「私の力が、完全に消失した」

そして、きっぱりとそう言った。



「なっ……もがっ」

隣で驚きの声を上げたミナトの口を、カヤは一瞬で塞いだ。

「静かにしてっ……!」

小声で訴れば、うんうんと何度も頷いたので、カヤは静かに手を離した。

ミナトはもう大きな声は上げなかったものの、呆然としたように口を開いている。


部屋の中は、大きなざわめきに満ちていた。

そんな。まさか。誠なのですか――――断片的に聞こえてくる言葉は、予想通りのものである。


「何故今までご内密にされていたのでございますか?本来ならば力が完全に消失する前に備えを始めなければならないと、貴方様も分かっておいででしょう」

一人の高官が翠に向かって言及した。

年季の入った立派な顎鬚を蓄え、真っ白な仙人眉が今にも掛かりそうなその眼は、咎めるように翠を熟視している。

「すまなかった、桂。内密にしていたつもりは無かったのだ」

桂と言う爺に対し、翠は落ち着き払って言った。

「私自身、力が失った事を自覚したのはつい最近でな。怪我で占いを行えなかったこの僅かな期間に、力が一気に消え失せてしまったらしい」

またもや部屋の中が、どよめいた。
高官達は口々に何か言葉を交わし合っている。

窓の外に居るカヤのところにも、部屋の中の嫌な雰囲気が這い出て伝わってきた。


「おいおい、やべえなんてもんじゃねえぞ……翠様の話、本当なのか?」

ミナトが小声で聞いてきた。

酷く動揺したような眼は、答えを求めるようにカヤに注がれている。

「……うん、そうみたい」

神妙に頷くと、ミナトは「……マジかよ」と言ったきり、黙り込んでしまった。




「とにかく今後の事を決めていかねばならない」

未だにざわめいている高官達を遮るようにして、翠が言う。

すると、桂の隣に座していた結髪の高官が、良く通る声で言い放った。

「今後の事も何も、貴方様には退いて頂く他ないのではありませんか?」

何人かの高官が、同調するように頷く。
だがそれとは正反対に、険しい表情で首を横に振る者も居た。

「今この状況で翠様に退かれては、我が国は露頭に迷いますぞ」

結髪の高官に別の高官が反論をぶつけ、そこからてんでばらばらな意見が飛び交い始めた。