動揺の色を見せているのは、カヤだけでは無かった。
「秋の祭事が中止だなんて……初めてじゃないの?」
「よっぽどの理由が無いと中止になんて出来ないはずですが……何かあったのでしょうか……?」
ユタもヤガミも、信じられないとでも言うような表情を浮かべながら言葉を交わしている。
その様子を見たカヤは、それがこの国の人達にとって、どれだけ衝撃的な事なのかを知った。
「タケル様は、何か理由は仰ってましたか?」
同じく初耳らしいミナトが、険しい顔でクシニナに尋ねる。
「良く分からなかったんだけど、翠様のお祈りが云々って……」
それを聞いた瞬間、ざわりと胸が騒いだ。
唐突に、数日前に翠と交わした会話が鮮やかなほど蘇る。
『――――てことは、翠のお祈りも無いの?』
『――――……一応あるよ』
あの時の、不自然な一瞬の間。
『――――私、最前列で見てるね!頑張ってね』
『――――……ああ、ありがとう。頑張るよ』
そう言った時の、翠の顔。
彼は確かに笑っていた。
眉尻を下げて、そう、そして――――偽りの笑みを浮かべていた。
皆に別れを告げ、医務室を出たカヤは翠の私室へ向かっていた。
本当は今日のお勤めはもう終わっていたのだが、どうしても気になったのだ。
ミナトを医務室に引き摺って行った時は夕方だったのに、既に外は真っ暗になっていた。
行灯の柔い光がポツポツと灯るだけの薄暗い廊下を、カヤは足早に進む。
(翠は、私に何かを隠してる)
所詮ただの疑問に過ぎないが、カヤには絶対的な確信があった。
そしてその確信は、翠の私室の真ん前に着いた時に、更に深まった。
「――――……何でも無いって言ってるだろ!」
入口に掛かる布を、今まさに捲ろうとしていたカヤは、慌てて手を引っ込めた。
間違いなく翠の怒声だった。
しかも『翠様』の口調では無い。カヤと二人きりの時のような、素の口調だ。
「何でも無いわけが無いでしょう!」
続けて、翠と同じくらい荒ぶっているタケルの声も聞こえてきた。
驚いた。冷静に考えれば二人は兄弟だから当たり前の事なのだろうが、翠がカヤ以外の人間に素の口調で話すの聞いたのは初めてだったから。
しかしカヤが思わず耳をそばだててしまったのは、それだけが理由では無い。
二人は、明らかに激しく口論をしていた。
「何度も言わせるな!もうこれ以上馬鹿な事は言うは止めろ!」
「それはこちらの科白です!気が付かないはずが無いでしょう!何年貴方様にお仕えしていると思っているのですか!」
「ああ、そう言われればそうだったな!だったら今回に限ってはお前の思い違いってやつだろう!」
翠の怒鳴りを最後に、しん、とした静寂が届いた。
きっと部屋の中では二人が無言で睨み合っているのだろう。
氷のような雰囲気が、布越しにひしひしと伝わってきた。
「秋の祭事が中止だなんて……初めてじゃないの?」
「よっぽどの理由が無いと中止になんて出来ないはずですが……何かあったのでしょうか……?」
ユタもヤガミも、信じられないとでも言うような表情を浮かべながら言葉を交わしている。
その様子を見たカヤは、それがこの国の人達にとって、どれだけ衝撃的な事なのかを知った。
「タケル様は、何か理由は仰ってましたか?」
同じく初耳らしいミナトが、険しい顔でクシニナに尋ねる。
「良く分からなかったんだけど、翠様のお祈りが云々って……」
それを聞いた瞬間、ざわりと胸が騒いだ。
唐突に、数日前に翠と交わした会話が鮮やかなほど蘇る。
『――――てことは、翠のお祈りも無いの?』
『――――……一応あるよ』
あの時の、不自然な一瞬の間。
『――――私、最前列で見てるね!頑張ってね』
『――――……ああ、ありがとう。頑張るよ』
そう言った時の、翠の顔。
彼は確かに笑っていた。
眉尻を下げて、そう、そして――――偽りの笑みを浮かべていた。
皆に別れを告げ、医務室を出たカヤは翠の私室へ向かっていた。
本当は今日のお勤めはもう終わっていたのだが、どうしても気になったのだ。
ミナトを医務室に引き摺って行った時は夕方だったのに、既に外は真っ暗になっていた。
行灯の柔い光がポツポツと灯るだけの薄暗い廊下を、カヤは足早に進む。
(翠は、私に何かを隠してる)
所詮ただの疑問に過ぎないが、カヤには絶対的な確信があった。
そしてその確信は、翠の私室の真ん前に着いた時に、更に深まった。
「――――……何でも無いって言ってるだろ!」
入口に掛かる布を、今まさに捲ろうとしていたカヤは、慌てて手を引っ込めた。
間違いなく翠の怒声だった。
しかも『翠様』の口調では無い。カヤと二人きりの時のような、素の口調だ。
「何でも無いわけが無いでしょう!」
続けて、翠と同じくらい荒ぶっているタケルの声も聞こえてきた。
驚いた。冷静に考えれば二人は兄弟だから当たり前の事なのだろうが、翠がカヤ以外の人間に素の口調で話すの聞いたのは初めてだったから。
しかしカヤが思わず耳をそばだててしまったのは、それだけが理由では無い。
二人は、明らかに激しく口論をしていた。
「何度も言わせるな!もうこれ以上馬鹿な事は言うは止めろ!」
「それはこちらの科白です!気が付かないはずが無いでしょう!何年貴方様にお仕えしていると思っているのですか!」
「ああ、そう言われればそうだったな!だったら今回に限ってはお前の思い違いってやつだろう!」
翠の怒鳴りを最後に、しん、とした静寂が届いた。
きっと部屋の中では二人が無言で睨み合っているのだろう。
氷のような雰囲気が、布越しにひしひしと伝わってきた。
