「―――――おい!こっちに怪しい奴が居たぞ!」
遠くの方からそんな声が響いてきて、ヤガミが弾かれたようにそちらを見た。
何人かの兵が、こちらに合図するように松明を振りながら、屋敷の裏手の方に向かって走っていく。
「カヤ様、お早く家にお戻りください!」
そう言い残し、ヤガミ達は馬小屋を一切振り返る事なく、バタバタと走り去っていった。
何だか良く分からないが、どうやら場は切り抜けられたらしい。
(嘘付いちゃった……)
咄嗟に自分の口から出まかせが出てきた事に、カヤ自身驚いていた。
ちくりとした罪悪感を感じながらも馬小屋に戻ると、女は柵の中から出てきていた。
訝し気な表情でカヤを見つめている。
「えっと……見つからなくて良かったですね」
勇気を持ってそう笑いかけると、その眉根の隙間の溝が更に深くなった。
その皺さえ、儚くて綺麗だ。
「なぜ私を助けた」
女の手には、まだしっかりと飛び苦無が握られている。
その鋭利な切っ先は、いつでもカヤを傷付ける事が出来るだろう。
「……馬達が静かだったので、なんとなく悪い人じゃない気がして」
カヤ自身、なぜ女を庇ったのか明確な理由は分からなかった。
ただ、あまりにも目の前の人間が美しいせいで、敵とか味方だとか、そう言う区別を付ける事すら何か違和感があったのだ。
「それに、比べるのも恐れ多いですけど、なんだか同士みたいに思えて」
へへ、と笑いながら、カヤは己の髪先を持ち上げた。
「同じような髪の人に出会えたの初めてです。嬉しい」
自分のように黒以外の髪を持つ人間と巡り合えるとは思っていなかった。
もしや世界中に一人も居ないのでは、とも思っていたのだ。
まさかこの国で、こんな風に出会えるなんて、夢のようだ。
カヤの発言に、女は呆気にとられたように眼を瞬かせた。
「……変な女だ」
ぽそりと呟き、それから馬小屋の窓からひらりと外に出てしまった。
「あ、待って!」
慌てて入口から外に出ると、女はもう村の方角に向けて走りだしていた。
もう随分遠くに居る。
その白い後ろ姿が今にも夜闇に溶け切ってしまいそうで、とても恐ろしくなった。
(きっともう会えない)
そんな予感に、気が付けばカヤもまた走り出していた。
屋敷周辺の騒ぎが嘘のように、村は静まり返っていた。
どうやら兵達の多くは屋敷の裏手に回っているようだ。
既に往来には女の姿は見えなかった。
しかし、屋敷の裏手に兵が集中しているならば、間違いなく反対側であるこちら側から逃げるだろう。
そう確信し、カヤは村の門へ向かって走った。
遠くの方からそんな声が響いてきて、ヤガミが弾かれたようにそちらを見た。
何人かの兵が、こちらに合図するように松明を振りながら、屋敷の裏手の方に向かって走っていく。
「カヤ様、お早く家にお戻りください!」
そう言い残し、ヤガミ達は馬小屋を一切振り返る事なく、バタバタと走り去っていった。
何だか良く分からないが、どうやら場は切り抜けられたらしい。
(嘘付いちゃった……)
咄嗟に自分の口から出まかせが出てきた事に、カヤ自身驚いていた。
ちくりとした罪悪感を感じながらも馬小屋に戻ると、女は柵の中から出てきていた。
訝し気な表情でカヤを見つめている。
「えっと……見つからなくて良かったですね」
勇気を持ってそう笑いかけると、その眉根の隙間の溝が更に深くなった。
その皺さえ、儚くて綺麗だ。
「なぜ私を助けた」
女の手には、まだしっかりと飛び苦無が握られている。
その鋭利な切っ先は、いつでもカヤを傷付ける事が出来るだろう。
「……馬達が静かだったので、なんとなく悪い人じゃない気がして」
カヤ自身、なぜ女を庇ったのか明確な理由は分からなかった。
ただ、あまりにも目の前の人間が美しいせいで、敵とか味方だとか、そう言う区別を付ける事すら何か違和感があったのだ。
「それに、比べるのも恐れ多いですけど、なんだか同士みたいに思えて」
へへ、と笑いながら、カヤは己の髪先を持ち上げた。
「同じような髪の人に出会えたの初めてです。嬉しい」
自分のように黒以外の髪を持つ人間と巡り合えるとは思っていなかった。
もしや世界中に一人も居ないのでは、とも思っていたのだ。
まさかこの国で、こんな風に出会えるなんて、夢のようだ。
カヤの発言に、女は呆気にとられたように眼を瞬かせた。
「……変な女だ」
ぽそりと呟き、それから馬小屋の窓からひらりと外に出てしまった。
「あ、待って!」
慌てて入口から外に出ると、女はもう村の方角に向けて走りだしていた。
もう随分遠くに居る。
その白い後ろ姿が今にも夜闇に溶け切ってしまいそうで、とても恐ろしくなった。
(きっともう会えない)
そんな予感に、気が付けばカヤもまた走り出していた。
屋敷周辺の騒ぎが嘘のように、村は静まり返っていた。
どうやら兵達の多くは屋敷の裏手に回っているようだ。
既に往来には女の姿は見えなかった。
しかし、屋敷の裏手に兵が集中しているならば、間違いなく反対側であるこちら側から逃げるだろう。
そう確信し、カヤは村の門へ向かって走った。