「二人共、来てくれたの?」

カヤは弾む気持ちで身体を起こした。

良かった。一人で悶々としすぎたせいで、そろそろ外を無意味に走り回りたくなってきた所だったのだ。


「滋養に良いお薬を持ってきたのですが、飲めますか?」

ナツナの手には、茶色く濁った液体がたっぷり入った器があった。

「うん!ありがとう!」

喜んでそれを受け取ると、二人はカヤの寝床の隣に腰を下ろした。

カヤがゆっくりと飲み始めると、ユタが心配そうに顔を覗き込んできた。

「体調大丈夫?寝不足ですって?」

「うん。大丈夫、大丈夫」

「ミナトの稽古が厳しすぎるんじゃないの?」

「ううん。寧ろいつもは、稽古のおかげで疲れて良く眠れるの。だから全然関係ないよ」

笑いながらそう言って、カヤは器の薬草を口にした。

「ふうん……」と何やら意味ありげに頷いたユタは、唐突に悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「もしかして恋患い?」

ぶほおっ、とカヤの口から薬が吹き出た。


「ごほっ、ごほっ……な、なに……言って……!?」

「あらやだ、遂にカヤにも春が来たのね」

咽すぎて言葉が出てこない間にも、ユタは一人で、うんうんと納得し始めてしまった。

「違う!違うよ、全然違う!」

ようやく息が整ったカヤは、唾を飛ばす勢いでまくし立てるが、ユタはケラケラと笑うばかりで聞く耳を持たない。

「照れないの。そんな真っ赤な顔して、認めてるようなものじゃない」

「ち、違う……そんなんじゃないってば……」

とは言え、自分の顔に熱が籠っているのは言われなくても分かった。

でも、本当に違うのに。

恋患いだなんて、自分の感情がそんな言葉に綺麗に収まるようには到底思えない。


悶々としていたカヤだったが、やがてニヤニヤとしているユタにチラリと視線を向けた。

こうなったら、この気持ちが何なのかをはっきりさせたい。

そう思ったカヤは静かに口を開いた。

「……ユタはさ、タケル様の事を慕ってるんだよね……?」

おずおずと聞いたカヤに、ユタは大きな目をぱちくりと瞬かせた。

「何よいきなり?」

「あの……その……それってどんな感じなの?」

我ながら、なんてユタが返答に困る質問をしてしまったのだろうと思った。

けれど、どうしてもこの名も無き感情の答えが欲しかったのだ。

「そうねえ……お会い出来たら嬉しいし、お話が出来たらもっと嬉しいわ。それから時々悲しくもなるし、訳も無く苦しくなったりするわね」

「……良く分かんない」

「良く分かんないのが『それ』って事よ」

と言われたが、やっぱり良く分からなかった。

不可解な感情の答を求めたはずなのに、カヤは更に迷子になってしまった。

良く分からないという事が『それ』だと言うのなら、確かに良く分からないという言葉はしっくり来るものの、結局は良く分からないのだから、それはつまり良く分からないと言う事なのでは――――ああもう、なんだっけ?良く分からない!


大いに混乱してしまい、冷静になろうと頭をぶんぶん振っていると、ユタが少し興奮気味に口を開いた。

「で、その人とは今どんな関係なのよ?」

「関係……?」

「ほら、もう想いを伝え合った仲だとか、なんなら将来を誓い合った仲だとか」

「いやいや、そんな事は一切!」

首が飛んでいきそうなほど横に振ったせいで、頭がくらくらしてしまった。