【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

喉がひくついて、カヤは思わず額の上にあった布をずり下ろした。

感情が溢れ出して、危うく涙目になったのをミナトに見られたくなくて。


「……ユタと同じだな」

真っ暗な視界の中、そんなミナトの声が聞こえた。

「……え?ユタ?」

今の言葉のどこにユタと似ている所があったのだろう。

訝しく思ったカヤは、そろそろと目元の布を退かした。

ミナトは何処か仕方なそうな笑みを浮かべて、カヤを見つめていた。

「タケル様を見る時のユタと同じ顔してた。お前―――――よっぽど翠様のこと慕ってるんだな」


――――ドクン、と心臓が喚いた。


前にも感じたことがある感覚。

数日前、翠と皮膚が触れ合った時の、あの恐ろしい苦しさに似ていた。



(慕ってる……翠を……?)

嗚呼、確かに慕っている。
翠はかけがえのない大事な存在だ。

それは自分でも分かっている。

でも、そこじゃなくて。


(……タケル様を見る時の、ユタ……)

ユタもタケルを慕っている。
でも、それはカヤとはまた違う『慕い方』のはずだ。


カヤは、タケルに話しかけられただけで真っ赤になっていたユタを思い出した。

(私も同じ顔してる……?)

笑っているのに苦しそうで、泣きそうで、でも信じられないくらいに幸せそうな、あんな顔を?



黙り込むカヤに気が付かないまま、ミナトは軽い調子で続ける。

「翠様が女で良かったな。じゃなきゃお前、今ごろ絶対惚れて……って、おい?辛いのか?」

カヤは再び顔を布で隠していた。
今度は、熱を放っている顔そのものを見れたくなくて。


(……違う……)

惚れる?何をそんな馬鹿げた事を。

翠に対して、そんな浮ついた気持ち抱くはずが無い。


(違う。こんなの違う)

しかしカヤは知らないのだ。

誰かを慕うという気持ちが、どんな形をしてどんな色をしているのか、全く。

分からない。全然分からない。

『それ』は、こんなにも鼓動が煩くて、息が苦しくなるようなものなのだろうか。


(私は、翠が、)

――――――この衝動の名を、知らない。













身体も頭も疲れているのに、その夜は一睡も出来ないまま夜明けを迎えてしまった。

次の日の朝カヤの顔を見た瞬間、ミナトは「今すぐ寝てろ馬鹿」と言って、カヤを寝床に押し込んだ。

ミナトの命令でカヤはその日、稽古どころか馬小屋に行く事さえ禁じられた。

そのためカヤは仕方なく横になっていたが、変に頭が冴えて眠れやしない。

どうにか眠ろうと眼を閉じては、意味も無く悶え、そして眼を閉じてはまた悶え―――――そんな事を繰り返しているうちに日は傾き、やがて夜になった頃だった。



「カヤちゃーん、こんばんはー」

「ミナトから聞いたわよ。体調崩したんですって?」

カヤの家を、ナツナとユタが訪ねて来たのだ。