「ミナトに褒められたの初めて!」
万遍に笑いながら言えば、鼻で笑われた。
「褒めてねーよ。感想を述べただけだ」
「……えー……そう来ますか……」
「本当に褒められたきゃ次は真正面から一本取りに来い」
まあ確かに、戦いの最中に相手が両腕をだらんと垂らし、こちらを心配して駆け寄ってきてくれるような奇跡があるとも思えない。
「それ一生無理なやつじゃん……」
肩を落としていると、愉快そうに笑っていたミナトが、ふと真面目な表情になった。
「寝不足の原因、翠様か?」
問われたカヤは、一瞬で焦りを覚えた。
「な、なんで……?」
「何でも糞もねえわ。翠様と正門で話してた日からだろ、お前が呆け始めたの」
じっとカヤを見下しながら、ミナトが断定口調で言った。
他人に興味なんて無さそうに見える彼は、時々こういった一面を見せる。
中委としての立場になってから養われたのか、元々そう言う人間なのかは分からない。
ただ、カヤの悩みは完全にお見通しだと言うことだけは分かった。
「……うん」
否定するのも無駄だと感じ、カヤは小さく頷いた。
「……まあ最近の翠様は働きづめだとは思うけど、神官の立場に居る以上それは仕方ない事だろ。翠様だってそれを分かってるし、だからあの人は揺るがない」
慰めにしては、いささか厳しい声色でミナトは言う。
「あの人と俺等は根本的に違うんだ。立場も考え方も、精神力も全部。翠様にとったら、お前に心配されるのも余計なお世話だろ。あの人なら絶対に大丈夫――――」
「分かってる」
口から飛び出て来た声は、少し怒っていた。
どうして自分がそんな風になっているのか分からなかった。
ただ、驚いたように口を噤んでいるミナトの言葉が、あまりにも正しすぎた事が悔しかったのかもしれない。
「……翠様が強いって分かってるし、私なんかが心配したところで欠片も意味が無いってことも分かってる」
今、翠が居なくなればこの国は呼吸を止める。
あの人の占いに縋りきって、絶対的な指針にして、そうやって生き延びてきたから。
そして、そのどうしようもない現実を、翠が一番感じている。
カヤが翠の手を取って「もう止めよう」と説得した所で、彼はその手を振り払うだろう。
「神官としての翠様はそれで幸福なんだろうし、私はそんな翠様だから尊敬してる」
背筋を伸ばして真っすぐ前を見すえる横顔は、いつだって美しい。
「……でも、あの人には自由も似合うの」
しかし、何にも囚われず、しなやかに地を掛ける姿は更に美しいに違いない。
カヤは、きっとそれを見たかった。
「その事に気が付いてほしい。気が付いて、欲しがってほしい。もっともっと曝け出してほしいの」
誰の目も気にせずに思いっきり草原を駆け回りたい――――と、いつだったか口にしてくれた、控えめな翠の望み。
嬉しかった。ようやく翠の生身の心に爪の先が触れた事が。
「私はあの人を全部知りたい。それで、いつか知らない所が一つも無くなったら、此処じゃない何処かへ行きたい。私があの人を連れて、誰もあの人を知らない場所に……行きたかった……」
透き通る夜明けの中を、咲き誇る花の道を、降り注ぐ星の下を、二人笑い合いながら。
誰かの眼なんて気にせず、互いの姿だけ見止め合って、どこまでもどこまでも遠くへ。
そんな叶わない夢を魅せてあげたかった。
あの人の心に、せめて永遠の花を一輪だけ咲かせたかった。
万遍に笑いながら言えば、鼻で笑われた。
「褒めてねーよ。感想を述べただけだ」
「……えー……そう来ますか……」
「本当に褒められたきゃ次は真正面から一本取りに来い」
まあ確かに、戦いの最中に相手が両腕をだらんと垂らし、こちらを心配して駆け寄ってきてくれるような奇跡があるとも思えない。
「それ一生無理なやつじゃん……」
肩を落としていると、愉快そうに笑っていたミナトが、ふと真面目な表情になった。
「寝不足の原因、翠様か?」
問われたカヤは、一瞬で焦りを覚えた。
「な、なんで……?」
「何でも糞もねえわ。翠様と正門で話してた日からだろ、お前が呆け始めたの」
じっとカヤを見下しながら、ミナトが断定口調で言った。
他人に興味なんて無さそうに見える彼は、時々こういった一面を見せる。
中委としての立場になってから養われたのか、元々そう言う人間なのかは分からない。
ただ、カヤの悩みは完全にお見通しだと言うことだけは分かった。
「……うん」
否定するのも無駄だと感じ、カヤは小さく頷いた。
「……まあ最近の翠様は働きづめだとは思うけど、神官の立場に居る以上それは仕方ない事だろ。翠様だってそれを分かってるし、だからあの人は揺るがない」
慰めにしては、いささか厳しい声色でミナトは言う。
「あの人と俺等は根本的に違うんだ。立場も考え方も、精神力も全部。翠様にとったら、お前に心配されるのも余計なお世話だろ。あの人なら絶対に大丈夫――――」
「分かってる」
口から飛び出て来た声は、少し怒っていた。
どうして自分がそんな風になっているのか分からなかった。
ただ、驚いたように口を噤んでいるミナトの言葉が、あまりにも正しすぎた事が悔しかったのかもしれない。
「……翠様が強いって分かってるし、私なんかが心配したところで欠片も意味が無いってことも分かってる」
今、翠が居なくなればこの国は呼吸を止める。
あの人の占いに縋りきって、絶対的な指針にして、そうやって生き延びてきたから。
そして、そのどうしようもない現実を、翠が一番感じている。
カヤが翠の手を取って「もう止めよう」と説得した所で、彼はその手を振り払うだろう。
「神官としての翠様はそれで幸福なんだろうし、私はそんな翠様だから尊敬してる」
背筋を伸ばして真っすぐ前を見すえる横顔は、いつだって美しい。
「……でも、あの人には自由も似合うの」
しかし、何にも囚われず、しなやかに地を掛ける姿は更に美しいに違いない。
カヤは、きっとそれを見たかった。
「その事に気が付いてほしい。気が付いて、欲しがってほしい。もっともっと曝け出してほしいの」
誰の目も気にせずに思いっきり草原を駆け回りたい――――と、いつだったか口にしてくれた、控えめな翠の望み。
嬉しかった。ようやく翠の生身の心に爪の先が触れた事が。
「私はあの人を全部知りたい。それで、いつか知らない所が一つも無くなったら、此処じゃない何処かへ行きたい。私があの人を連れて、誰もあの人を知らない場所に……行きたかった……」
透き通る夜明けの中を、咲き誇る花の道を、降り注ぐ星の下を、二人笑い合いながら。
誰かの眼なんて気にせず、互いの姿だけ見止め合って、どこまでもどこまでも遠くへ。
そんな叶わない夢を魅せてあげたかった。
あの人の心に、せめて永遠の花を一輪だけ咲かせたかった。
