【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

はらり。目の前に金の髪が落ちて来て、翠を隠してしまう。
しかしそれを払いのける気力すら無かった。

(つかれた……)

カヤは、自分の身体が酷く疲弊している事に気が付いた。

自覚してしまえば最後、カヤの瞼が抗いようの無い力で閉じられていく。

寝てはいけない。
そう思って、再び瞼を開くけれど、またすぐに下がってしまう。

(少しだけ眠ろう)

だって、眩しいのだ。
視界を埋め尽くす金が眼に刺さって、痛いのだ。


(少し、だけ)

―――――解放されたい。





ふ、と気が付くと、金色の世界にいた。

両側には広大な稲畑が広がっていて、カヤはその間に伸びる一本のあぜ道に立っている。

道には終わりも始まりも無かった。
ひたすら不自然なほど真っすぐに伸び、遥か向うの地平線まで続いていた。


「……かか様、とと様」

カヤから少し離れた道の先に、二人が立っていた。

二人は黙ってカヤを見つめている。
ぞっとした。その顔は、恐ろしいほどに無表情だった。

しかしそれはカヤも同じだった。
また二人に会えたと言うのに、頬がぴくりとも上がりやしない。

その代わりに、しつこかった頭の痛みからも解放されていた。
カヤの身体も心も、どこまでも凪いでいた。


「来るの?」

かか様がそう問いかけた。

「うん」

カヤは頷く。


かか様はそれ以上何も言わなかった。
ただひっそりと、とと様と寄り添い、カヤを見つめている。

そよそよと風が吹き、しなだれている稲穂を優しく揺らした。

それに呼応するようにカヤの髪もまたそよぐ。

涼しくて、さっぱりとした風だった。心地良い。


(狂うほど穏やかだ)

嗚呼、きっと、かか様の言っていた場所は此処なのだ。

だって何の苦しみも無い安寧の地なのに、一切の嬉しさが湧かない。

そして、その事に対する悲しみすらも湧かない。

完璧な虚無。
それこそカヤが望んでいた、そのものだった。


カヤは一歩前に進みだした。
何の感情もない眼でカヤを見つめる、かか様と、とと様に向かって。

(これで良いの)

二度と笑えなくたって構わない。

(だって、二度と泣かなくて済むんでしょう)


だから此処に来たいの。










「……カヤ」

誰かが呼んでいる。

カヤがゆっくりと瞼を開くと、そこはまだ金色の中だった。

否、そうではない。
眼に髪が掛かっているだけだ。

カヤが頭をもたげると、退いた髪の向こうから優しい瞳が現れた。

「カヤ」

横たわる翠が微笑みながらこちらを見つめていた。
真っ暗な部屋の中、二人の顔は酷く近しい距離にあった。

「すい……おきたの?」

「ああ」

「たいちょう、どう?」

起き抜けでのせいで舌足らずのまま問えば、

「かなり良くなったよ」

随分しっかりとした声で答えが返ってきた。