【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「これを翠様に。雪中花を煎じたものだそうだ」

差し出された器の中には、白っぽい粘度の高そうな液体が入っている。

「……これを煎じたのは、クシニナさんでしょうか?」

器を受け取りながら尋ねたカヤに、タケルは少し不意を突かれたように目を見開いた。

「あ、ああ……そうだが」

「尋問の結果はどうなったのでしょうか」

その質問に、タケルが明らかに狼狽えた。

「……知っておるのか」

その反応を見て悟った。
どうやら、何も知らなかったのはカヤだけだったらしい。

きっと翠も同じなのだろう。

だから湖へ散歩へ行った日、意地でもカヤの質問に答えてくれなかったのだ。


頷いたカヤに、タケルは小さく息を吐くと、静かに口を開いた。

「尋問は無事終わった。あくまで形式上のものだからな……クシニナの口から直接、今回の事には加担していないのだと聴く必要があっただけなのだよ。勿論クシニナは加担はしていないと言っておった」

「そうですか……」

「咎めの内容に関しては、また後日翠様が判断を下されるだろう。案ずるな。きっと悪いようには成らぬ」

ポン、とカヤの肩にタケルの大きな手が乗った。

慰めるように何度か優しく叩かれ、カヤはとりあえず頷くしか無かった。


「それからクシニナから言伝だ」

俯いていたカヤは、その言葉に顔を上げた。

「すまなかった、との事だ」

それを、どう捉えれば良いのか分からなかった。

すまないのはこちらの方なのだ。

カヤがこの国に来なければ、何も始まらなかったし、終わりもしなかった。

「そうですか」と呟くカヤを、タケルが心配気な目で見つめているのが分かった。

しかしやがて彼は「翠様を頼む」と言い残し、足早に去って行った。

その後ろ姿を見送り、カヤは覚束ない足取りで部屋に戻った。

酷く頭が痛んだし、鈍い鉛を入れているかのように腹が重かった。


(とにかく翠に薬を……)

考えすぎて疲れた頭の片隅に、それだけがはっきりと浮かぶ。

カヤはぐったりとしている翠をどうにか抱き起し、匙で一口ずつ薬を運んだ。

意識朦朧としている翠だったが、カヤが根気よく促すと、どうにか薬を嚥下してくれた。

かなりの時間を掛け、どうにか器が空になるとカヤは再び翠を横たえた。

今のところ、特に翠に変わった様子は見られない。
薬が効き始めるまで、ある程度の時間は掛かるだろう。

その間に翠が吐き戻したり、激しく咳き込んでも大丈夫なよう、カヤは彼の隣に腰を下ろした。


何かから逃れるように強く膝を抱き、カヤは長い間じっとしていた。

色んな事が頭に浮かんで、そしてそれを押しのけるようにして、また別の事が浮かぶ。

『考えない』と言う事はもう諦めて、カヤはそれに身を任せた。

しかしそれが悪かったのかもしれない。

時間を追うごとに頭痛は酷くなっていって、引っ切り無しにズキズキと痛みを訴えるようになった。

どうしても耐え切れなくなったカヤは、遂にそのまま翠が横たわる寝台に、うな垂れるようにした頭を預けた。