【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

静かになった部屋の中、カヤは正座をしたまま、ぼんやりと翠を見下ろした。

これ以上、落ち込む事なんて無いと思えていたが、心が地獄の果てまで落ちて行った気分だった。


空っぽの頭の中に、包帯だらけのミナトの姿が浮かんで、そして数珠繋ぎにリンの姿も浮かぶ。

かつてカヤに向けてくれたあの無垢な瞳が、今どれだけの苦痛に歪んでいるのだろう?

(……リン)

あんな眼に合わなくて良いはずの子を、人間同士のいざこざに巻き込んでしまった。


(ヤガミさん達、リンの事を見つけ出してくれたかな……)

一刻も早く見つかって欲しいけど、その知らせを聞きたくない自分も居た。

だって、見つかったのが生きているリンとは限らないのだ。

もしも最悪な知らせを受けた時、自分は一体どんな顔をしてミナトに会えば良いのか。

必死に詫びようが、他に頭を擦り付けようが、到底足りやしないだろう。



それからカヤは、今も尚、尋問を受けているであろうクシニナの事を思った。

彼女はこれからどうなるのだろう?
屋敷を追い出されてしまうのだろうか?

いや、それだけでは済まないかもしれない。
ユタは、今回の膳の行為は『翠への反逆』と同意だと言っていた。

もしかしたら彼女は、膳と同様に国をも追い出されるのではなかろうか。

そうなったら、クシニナの今後の生活は?
そして彼女が今まで築いてきたものは?


(……考えたく、ない)


カヤは、抱えた膝に顔を埋め、爪痕が付いてしまうほどに己の腕を抱き込んだ。

陰鬱な感情が鬼のように押し寄せ、内臓がのたうち回った。

考えるのを今すぐ止めたかった。
けれど、次から次に嫌な感情だけが湧きあがって来て、どうしても思考が止まらない。


"どこに行っても、どう足掻いても、お前は人を不幸にするだろう"

膳の言葉が、呪いのように鼓膜にこびり付き離れない。


「……うる、さい」

分かっている。分かっていた。
どれだけ短く切り落としても、この忌々しい髪からは逃れられない。

そしてもう、助けを乞うという望みすら、愚かなのだ。






どれほどそうしていただろう。

誰かが部屋の入口から呼んでいる声が聞こえ、カヤはふと頭を上げた。

「……カヤ……カヤ、少し出てきてはくれぬか」

それはタケルの声だった。

驚いた事に、もう夕方になっていたらしい。

来たときは昼の光に満ちていた部屋の中が、すっかり真っ赤になっていた。

カヤは立ち上がって、入口の布を捲った。
そこには片手に器を持ったタケルが立っていた。