「……クシニナさん、なの……?」
目を背けた報いだろうか。
否、それともこの世で息をしている事への咎めかもしれない。
「ねえ、膳の娘ってクシニナさんなの!?お願い、教えてユタ!」
縋るように詰め寄ったカヤに、ユタは観念したように目を伏せた。
「……ええ、そうよ」
その肯定を受けた瞬間、全身から力が抜けた。
膝立ちになっていたカヤは、ふらふらとその場に座り込む。
咄嗟にユタに腕を引かれなければ、そのまま後ろに倒れ込んでいただろう。
「あのね、カヤ……」
呆然とするカヤに、ユタがおずおずと言う。
「親子と言っても、元々お二人はあまり仲が宜しくなかったの。クシニナさんは竹を割った様な性格でいらっしゃるから、どうしても膳様と相容れなかったのよ……」
ユタの言葉が、ただの音となって右から左へすり抜けていく。
「クシニナさんは随分前に膳様のお家を出ていらっしゃって、そのお陰で膳様が土地を囲い込んでいたのが明るみになった時も、共謀者の疑いは掛けられなかったわ。だからお咎めも受けなかったんだけど……」
ユタは言葉を途切れさせ、表情を曇らせた。
「さすがに今回の事は、高官様達も無視出来なかったみたい……翠様直属のお世話役の命を狙うなんて、翠様への反逆と同じだから……」
今のカヤには、ユタの言っている事は少し難しかった。
どうにか言葉の意味を理解しようとしたが、半分以上は頭に入って来なかった。
ただ、何か良く無い事を言っているのは声の調子で分かった。
「……クシニナさんは、知ってるの……?」
宙の一点を見つめながら、カヤはどうにかそれを口にした。
「え?」
「私が……膳の位を奪った事……」
ユタは一瞬眼を見開き、そして咎めるように眉を顰めた。
「そんな言い方しないの……まあ、でも……そうね、ご存じよ」
誤魔化しても無駄だと思ったのか、ユタはきっぱりと頷いた。
下手に隠されるよりも、それは有り難い事だったが、やはりカヤの心は一瞬で凍て付いた。
(……そうだったのか)
冷たすぎもせず、優しすぎもせず、カヤをただの人間として扱ってくれたクシニナ。
言葉は少し乱暴で、あまり人に気を使わないが、カヤはそんなクシニナが好きだった。
彼女が纏う明け透けな空気に憧れていたと言っても過言では無い。
けれど。
(どんな気持ちだったんだろう)
本当は憎まれていたのではないだろうか。
今までの態度は全部嘘だったのではないだろうか。
身内を貶めた人間なんて、忌々しいに違いなかったろうに―――――
「でもね、聴いて、カヤ」
ふわふわと、ユタの声がどこか遠くの方から聴こえた。
それは深く霞掛かっていて、よく聴こえない。
「クシニナさんは膳様が位を奪われた時、責任を取って屋敷を去るって申し出たの……でもね、それを止めたのは翠様よ」
ユタの顔が目の前に現れた。
何も反応を示さないカヤを心配して、顔を覗き込んできたらしい。
カヤはただただ無意識に頷いて相槌を打った。
目を背けた報いだろうか。
否、それともこの世で息をしている事への咎めかもしれない。
「ねえ、膳の娘ってクシニナさんなの!?お願い、教えてユタ!」
縋るように詰め寄ったカヤに、ユタは観念したように目を伏せた。
「……ええ、そうよ」
その肯定を受けた瞬間、全身から力が抜けた。
膝立ちになっていたカヤは、ふらふらとその場に座り込む。
咄嗟にユタに腕を引かれなければ、そのまま後ろに倒れ込んでいただろう。
「あのね、カヤ……」
呆然とするカヤに、ユタがおずおずと言う。
「親子と言っても、元々お二人はあまり仲が宜しくなかったの。クシニナさんは竹を割った様な性格でいらっしゃるから、どうしても膳様と相容れなかったのよ……」
ユタの言葉が、ただの音となって右から左へすり抜けていく。
「クシニナさんは随分前に膳様のお家を出ていらっしゃって、そのお陰で膳様が土地を囲い込んでいたのが明るみになった時も、共謀者の疑いは掛けられなかったわ。だからお咎めも受けなかったんだけど……」
ユタは言葉を途切れさせ、表情を曇らせた。
「さすがに今回の事は、高官様達も無視出来なかったみたい……翠様直属のお世話役の命を狙うなんて、翠様への反逆と同じだから……」
今のカヤには、ユタの言っている事は少し難しかった。
どうにか言葉の意味を理解しようとしたが、半分以上は頭に入って来なかった。
ただ、何か良く無い事を言っているのは声の調子で分かった。
「……クシニナさんは、知ってるの……?」
宙の一点を見つめながら、カヤはどうにかそれを口にした。
「え?」
「私が……膳の位を奪った事……」
ユタは一瞬眼を見開き、そして咎めるように眉を顰めた。
「そんな言い方しないの……まあ、でも……そうね、ご存じよ」
誤魔化しても無駄だと思ったのか、ユタはきっぱりと頷いた。
下手に隠されるよりも、それは有り難い事だったが、やはりカヤの心は一瞬で凍て付いた。
(……そうだったのか)
冷たすぎもせず、優しすぎもせず、カヤをただの人間として扱ってくれたクシニナ。
言葉は少し乱暴で、あまり人に気を使わないが、カヤはそんなクシニナが好きだった。
彼女が纏う明け透けな空気に憧れていたと言っても過言では無い。
けれど。
(どんな気持ちだったんだろう)
本当は憎まれていたのではないだろうか。
今までの態度は全部嘘だったのではないだろうか。
身内を貶めた人間なんて、忌々しいに違いなかったろうに―――――
「でもね、聴いて、カヤ」
ふわふわと、ユタの声がどこか遠くの方から聴こえた。
それは深く霞掛かっていて、よく聴こえない。
「クシニナさんは膳様が位を奪われた時、責任を取って屋敷を去るって申し出たの……でもね、それを止めたのは翠様よ」
ユタの顔が目の前に現れた。
何も反応を示さないカヤを心配して、顔を覗き込んできたらしい。
カヤはただただ無意識に頷いて相槌を打った。
