【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

胃袋が、どん底まで落ちていった気がした。

(最低だ、私)

自分のせいで、ミナトがあれだけ大切にしていたリンの生死が分からない事。

そして、いくら頭がいっぱいだったとは言え、それを今の今まで忘れていた事。

突然、なぜ自分がこの場に居るのか分からなくなってしまった。

そんな資格なんて露ほども無いように思えた。

(……消えちゃいたい)

今、ミナトがどんな顔をしているのか直視出来なかった。



「そ、そう言えばカヤ」

重い空気を晴らすように、ユタがわざとらしい明るい声を出した。

「それ雪中花よね?どうしたの、そんなに握りしめて」

ユタはカヤの腕の中にある雪中花を指差した。

無意識のうちに花が折れてしまうほどに握りこんでいた事に気が付き、カヤは指の力を緩めた。

「あ……これ、クシニナさんに……翠様のお薬で……渡さなきゃいけないの……」

未だ頭に衝撃が残っているせいで支離滅裂な事を言ってしまったが、それでもユタには通じたらしい。

「ああ、煎じるのね。でも、クシニナさんに……?」

納得したような顔をしたユタだったが、何故だか訝し気に眉を寄せる。

何故、彼女がそんな表情をするのか分からなかった。

「うん、そう約束したから……」

「そうなの……でも、いつお戻りになるかは分からないわよ。膳様の事で尋問を受けて――――」

「――――ッユタ!」

カヤは弾かれたように肩を震わせた。
それはユタもだった。

唐突に大きな声を出したミナトは、ユタに鋭い視線を送っている。

警告めいたその視線を受け、ユタは何かに気が付いたように「あっ」と、口元を手で覆った。

「ご、ごめんなさい……私……もしかして、カヤ……知らなかった……?」

ユタのどんぐりのような瞳が、窺うようにこちらを見やる。

カヤは、自分の中でするすると血の気が引いてくのを感じていた。


「今なんて言ったの……?尋問?膳の事で……?」

嫌な予感なんてものでは無かった。

全身が小刻みに震えて、心臓が暴れ回って、酷い吐き気がした。


"娘さんは屋敷で働いてるんだっけね"

"よりにもよって父親が翠様のお怒りを買っちまうなんて、肩身も狭いだろうねえ"


翠と湖に散歩へ行った雨の日、膳の屋敷の前で女性達がそう会話をしていた。

膳の娘が屋敷勤めなのはその時に知ったが、きっとカヤの知らない人なんだろうって思っていた。

こんなに人がたくさん居る屋敷の中で、まさか自分と知り合いなわけが無いと。

そう自分を納得させていた。心の何処かで期待していた。