【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

(本当は、本当はね)

いっそ罵られれば良いと、本気で思っていた。


(……ごめんなさい)

でも、もっともっと心の奥では、罵られるのは嫌だって思っていた。

だってそれはとても辛い事だから。

カヤの望みは卑怯で汚いのだ。
欲に塗れている。

けれど、だから嬉しかった。

カヤの望み通り、優しく居てくれるミナトが心底嬉しくて、嬉しくて。


(ごめん、なさい)

―――――そして、死にそうなほど苦しくなった。





ふ、と後頭部からミナトの掌が離れて行った気配がした。

「……なあ」

ぽつりと呼ばれ、のろのろと顔を上げる。

「……ひっく、……な、なに……?」

鼻を啜りながら、首を傾げる。

すると、離れて行ったはずの掌が舞い戻り、今度はカヤの頬を包んだ。

そんな所、そんな風にミナトに触られた事なんて一度も無かった。

少し驚いたせいか、カヤの嗚咽はするすると息を潜めていく。


「……なに?」

もう一度問うたにも関わらず、ミナトは無言でカヤと視線を交じらせるばかり。

睫毛の一本一本どころか、瞳の複雑な模様まで見えた。

こんなにも近くでミナトと見つめ合ったのは、初めてだった。

と、頬に置かれていた掌が、するりと滑った。

それは一度上昇して未だに残留していた眼尻の涙をまたもや拭い、それから顎近くまで下がったきた。

涙のせいでびしょ濡れになっているであろう唇を、ミナトの親指がぎこちなく撫でる。

「……あっか」

赤い―――――それが色を意味する言葉だと気が付くのに、少し時間が掛かった。



「……翠様の唇の方が赤いよ」

ぞっとするほどね。

そんなカヤの言葉に、ミナトは「ふうん」と何処か興味無さげに相槌を打つ。

それからその眼が、ふと伏せられた。

至近距離にある切れ長の瞳は、カヤの唇に向けられている。

「お前の方が赤い」

そう言って、カヤの頬を柔く引き寄せた。

自ずと顔の距離が近づいていく中、ふとミナトの唇に眼が向いた。

(あ、切れてる)

痛々しく血が滲む薄い唇。
その隙間から、白い八重歯が見えた。

(牙みたいだ)

ぽっかりと口を開けて、目の前の獲物を喰らおうとするような―――――――





「お取込み中悪いんだけど」

真上から降ってきた声に、二人は動きを止めた。

「ミナト、そろそろ包帯変えるわよ。脱ぎなさい」

そこには、手に大量の包帯を持つユタが立っていた。
訝し気な表情をして、ミナトを睨みつけている。


「あ、ごめん、ユタ」

カヤは慌ててミナトから離れた。

カヤが退いたにも関わらず、それでもユタはミナトをじっと見降ろし続けている。

ミナトは何故かそっぽを向いていた。


「包帯、後にした方が良いかしら?」

「……んでだよ、今で良いっつの」

「あらそう」

良く分からない会話を交わした後、ようやくユタはミナトの傍に腰を下ろした。

テキパキとした手つきでミナトの身体を起こすと、衣を脱がせていく。