「それは、どういう……」
問おうとした言葉は、唇があまりにも震えるせいで、途切れた。
そんな。そんな言葉、まるで。
――――ミナトが、虫の息だと言っているのと同じではないか。
「ぐ、うぅぅっ……翠っ、様……後生です……!」
地獄の底から発せられているような声に、カヤはハッとした。
三人がかりで床に拘束されている膳が、翠に向かって必死に訴えかけていた。
「私めの命は、どうとでもっ……して下さい!っ、わ、たしは……死しても尚、貴女様へのっ……忠誠を、誓いましょう……」
息も絶え絶えになりながら、膳はどうにか言葉を紡ぐ。
「しかし、どうか……このっ、娘を……遠ざけて、下さい……こやつは、貴女をっ……必ずや修羅に……落とすでしょう……!」
その場のほとんどの眼が、カヤに注がれた。
きっと誰も膳が何を言っているのか理解出来ないだろう。
それなのに、多くの視線に『畏怖』が含まれているのを、カヤは感じ取った。
膳の不気味な予言に、充てられたかのように。
「……タケル」
そっ、と静かな声。
唯一カヤに視線を向けていなかった翠が、タケルを呼んだ。
「は、はい」
「刑を撤回する。この者は、国外追放に処せ」
タケルが、戸惑ったような様子を見せた。
翠が急に思いとどまったからなのか、はたまたその声色に僅かばかりの抑揚が戻ったからか。
しかしタケルはすぐに「承知しました」と頷いた。
その表情には安堵の色が浮かんでいた。
「膳よ」
翠が再び口を開く。
凛として、いつもの声に限りなく近かった。
たおやかな、翠の声。
ずっと耳に届けたいと思う音のはずなのに、カヤはなぜだか嫌な予感を抑えられなかった。
「私は私の意志で道を進む。何があろうと、己が選んだ道。甘んじて受け入れる覚悟だ」
背筋が、するすると冷えていくのを感じた。
きっぱりと言った翠の眼尻が、ゆるりとカヤを向く。
嗚呼、やっと視線が確かに混ざり合ったと言うのに。
カヤの心は、歓喜よりも絶望に侵され始めていた。
(何を言ってるの、翠)
駄目だ、貴方は分かっていない。
その道を行ってはいけないの。
そう叫びたいのに。貴方の唇を塞いでしまいたいのに。
それでも、この頼りない喉はひくつくばかりで。
「例えそれが、修羅の道なのだとしても」
真っ赤な唇がそう宣言したのを、ただぼんやりと眺めていた。
――――ぐしゃり。
頭の片隅で、熟れきった果実が枝から落ち、無残に潰れた音がした。
「翠様……!」
タケルが叫び声をあげた。
ち、がう。ちがう。そうじゃない。
果実などではない。
それは、翠が突如崩れ落ちた音だった。
「翠様!しっかりなさって下さい!」
真っ青な顔をしたタケルが、翠に駆け寄る。
鮮やかな朱色の中に倒れる翠は、正に潰れた果実そのものだった。
それまで自分の足で立って、話していたなんて嘘みたいに、ぴくりとも動かない。
問おうとした言葉は、唇があまりにも震えるせいで、途切れた。
そんな。そんな言葉、まるで。
――――ミナトが、虫の息だと言っているのと同じではないか。
「ぐ、うぅぅっ……翠っ、様……後生です……!」
地獄の底から発せられているような声に、カヤはハッとした。
三人がかりで床に拘束されている膳が、翠に向かって必死に訴えかけていた。
「私めの命は、どうとでもっ……して下さい!っ、わ、たしは……死しても尚、貴女様へのっ……忠誠を、誓いましょう……」
息も絶え絶えになりながら、膳はどうにか言葉を紡ぐ。
「しかし、どうか……このっ、娘を……遠ざけて、下さい……こやつは、貴女をっ……必ずや修羅に……落とすでしょう……!」
その場のほとんどの眼が、カヤに注がれた。
きっと誰も膳が何を言っているのか理解出来ないだろう。
それなのに、多くの視線に『畏怖』が含まれているのを、カヤは感じ取った。
膳の不気味な予言に、充てられたかのように。
「……タケル」
そっ、と静かな声。
唯一カヤに視線を向けていなかった翠が、タケルを呼んだ。
「は、はい」
「刑を撤回する。この者は、国外追放に処せ」
タケルが、戸惑ったような様子を見せた。
翠が急に思いとどまったからなのか、はたまたその声色に僅かばかりの抑揚が戻ったからか。
しかしタケルはすぐに「承知しました」と頷いた。
その表情には安堵の色が浮かんでいた。
「膳よ」
翠が再び口を開く。
凛として、いつもの声に限りなく近かった。
たおやかな、翠の声。
ずっと耳に届けたいと思う音のはずなのに、カヤはなぜだか嫌な予感を抑えられなかった。
「私は私の意志で道を進む。何があろうと、己が選んだ道。甘んじて受け入れる覚悟だ」
背筋が、するすると冷えていくのを感じた。
きっぱりと言った翠の眼尻が、ゆるりとカヤを向く。
嗚呼、やっと視線が確かに混ざり合ったと言うのに。
カヤの心は、歓喜よりも絶望に侵され始めていた。
(何を言ってるの、翠)
駄目だ、貴方は分かっていない。
その道を行ってはいけないの。
そう叫びたいのに。貴方の唇を塞いでしまいたいのに。
それでも、この頼りない喉はひくつくばかりで。
「例えそれが、修羅の道なのだとしても」
真っ赤な唇がそう宣言したのを、ただぼんやりと眺めていた。
――――ぐしゃり。
頭の片隅で、熟れきった果実が枝から落ち、無残に潰れた音がした。
「翠様……!」
タケルが叫び声をあげた。
ち、がう。ちがう。そうじゃない。
果実などではない。
それは、翠が突如崩れ落ちた音だった。
「翠様!しっかりなさって下さい!」
真っ青な顔をしたタケルが、翠に駆け寄る。
鮮やかな朱色の中に倒れる翠は、正に潰れた果実そのものだった。
それまで自分の足で立って、話していたなんて嘘みたいに、ぴくりとも動かない。
