「っ、これでっ、……これで、良いのだぁああぁあ!」
膳はもがき苦しみながらも、血走った眼をタケルに向けた。
歯を食いしばりすぎた膳の口からは、涎と血が混ざり合った液体が垂れている。
その恐ろしい形相に、タケルは一瞬言葉を失ったかのように見えた。
しかしすぐに意識を取り戻すと、翠の手首を掴み、その馬鹿力で一瞬で刀身を引き抜いた。
床と膳の掌を貫いていた剣は、案外あっさりと抜ける。
タケルは翠の手から剣をそっと放させると、近くに居た兵に渡した。
「ぐ……おっ……おぉおぉ……」
それを皮切りにして、痛みに呻く膳を兵達が拘束しに掛かる。
氷のように冷え切っていた空間が、ようやく音と動きを取り戻し始めた。
「……翠様、お手が」
そんな中、ぴくりとも動かない翠にタケルが声を掛ける。
瞬き一つすらしなかった翠が、ゆるりとタケルに向いた。
この場に来てようやく初めて、翠の唇が言葉を発した。
「即刻処刑しろ」
冷ややかすぎる声に、タケルの表情が目に見えて引き攣った。
「お待ち下さい……処刑の場合は高官達との協議を交わす必要がございます」
タケルが当惑したような口調で言う。
翠は相変わらず無表情のまま、タケルを冷ややかに見据えた。
反論を許さぬような、厳しい目。
しかしタケルは、そんな視線を向けられても尚、首を縦には振らなかった。
代わりにその視線から逃れるように顔を背けると、カヤの元へ歩み寄ってきた。
「大事ないか、カヤ」
そう言ってカヤの縄を解いてくれた。
優しさを含んだタケルの言葉が、じわりと身体中に染み渡る。
そして同時に、衝撃のあまり停止していたカヤの思考が、一気に動き始めた。
「タ、タケル様……!」
手の縄が解かれたと同時、カヤはタケルに縋りついた。
「どうか森へ!ミナトが崖から落ちたのですっ……!ひ、酷い怪我をしていてっ……まだ、間に合うかもしれませんっ……お願いです!お願いです!」
必死に懇願したカヤの肩を掴み、タケルはそっと引き剥がした。
「落ち着くのだ、カヤ。そのミナトから報告を受けて我々は来たのだ」
その言葉を理解するのに、しばらく時間が掛かった。
「……え……?」
「いや、正しくは村の門番からだがな。伝え聞いたところによると、ミナトは自力で崖を登り、どうにか村の門まで辿り着いたらしい。門番に伝令を頼むと、そのまま気を失ってしまったようだが……今は屋敷で手当てを受けておる」
カヤは二、三度、口をぱくぱくと開いては閉じを繰り返した。
「で、は……ミナトは生きているのですね……?」
声は擦れていたし、震えていた。
ぼろぼろと、安堵の涙が次々に飛び出し、頬を伝う。
(生きていてくれたっ……)
心臓を浸していた絶望感が、徐々に晴れていく。
抗いようのない喜びに、身体中が打ち震えた。
だが、そんなカヤとは対照的に、タケルの表情は暗い。
「……そうだな。"一応"生きてはいる」
ひやり、と。
一度は暖かみを持った心臓が、また冷水に漬かったように凍えた。
膳はもがき苦しみながらも、血走った眼をタケルに向けた。
歯を食いしばりすぎた膳の口からは、涎と血が混ざり合った液体が垂れている。
その恐ろしい形相に、タケルは一瞬言葉を失ったかのように見えた。
しかしすぐに意識を取り戻すと、翠の手首を掴み、その馬鹿力で一瞬で刀身を引き抜いた。
床と膳の掌を貫いていた剣は、案外あっさりと抜ける。
タケルは翠の手から剣をそっと放させると、近くに居た兵に渡した。
「ぐ……おっ……おぉおぉ……」
それを皮切りにして、痛みに呻く膳を兵達が拘束しに掛かる。
氷のように冷え切っていた空間が、ようやく音と動きを取り戻し始めた。
「……翠様、お手が」
そんな中、ぴくりとも動かない翠にタケルが声を掛ける。
瞬き一つすらしなかった翠が、ゆるりとタケルに向いた。
この場に来てようやく初めて、翠の唇が言葉を発した。
「即刻処刑しろ」
冷ややかすぎる声に、タケルの表情が目に見えて引き攣った。
「お待ち下さい……処刑の場合は高官達との協議を交わす必要がございます」
タケルが当惑したような口調で言う。
翠は相変わらず無表情のまま、タケルを冷ややかに見据えた。
反論を許さぬような、厳しい目。
しかしタケルは、そんな視線を向けられても尚、首を縦には振らなかった。
代わりにその視線から逃れるように顔を背けると、カヤの元へ歩み寄ってきた。
「大事ないか、カヤ」
そう言ってカヤの縄を解いてくれた。
優しさを含んだタケルの言葉が、じわりと身体中に染み渡る。
そして同時に、衝撃のあまり停止していたカヤの思考が、一気に動き始めた。
「タ、タケル様……!」
手の縄が解かれたと同時、カヤはタケルに縋りついた。
「どうか森へ!ミナトが崖から落ちたのですっ……!ひ、酷い怪我をしていてっ……まだ、間に合うかもしれませんっ……お願いです!お願いです!」
必死に懇願したカヤの肩を掴み、タケルはそっと引き剥がした。
「落ち着くのだ、カヤ。そのミナトから報告を受けて我々は来たのだ」
その言葉を理解するのに、しばらく時間が掛かった。
「……え……?」
「いや、正しくは村の門番からだがな。伝え聞いたところによると、ミナトは自力で崖を登り、どうにか村の門まで辿り着いたらしい。門番に伝令を頼むと、そのまま気を失ってしまったようだが……今は屋敷で手当てを受けておる」
カヤは二、三度、口をぱくぱくと開いては閉じを繰り返した。
「で、は……ミナトは生きているのですね……?」
声は擦れていたし、震えていた。
ぼろぼろと、安堵の涙が次々に飛び出し、頬を伝う。
(生きていてくれたっ……)
心臓を浸していた絶望感が、徐々に晴れていく。
抗いようのない喜びに、身体中が打ち震えた。
だが、そんなカヤとは対照的に、タケルの表情は暗い。
「……そうだな。"一応"生きてはいる」
ひやり、と。
一度は暖かみを持った心臓が、また冷水に漬かったように凍えた。
