【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

(……馬鹿翠)

そんなに虚勢を張ってどうなるって言うんだ。

貴方を助けるために、タケルが、そしてカヤが居るはずなのに。
使ってくれなければ存在する意味が無い。


またもや沸々と怒りが込み上げてきて、カヤは眉間に皺を寄せながら部屋に入った。

「……ん?」

翠はなぜかカヤが出て行った時と全く同じ体勢のまま固まっていた。

大丈夫だろうか、と色んな意味で心配になりながら、カヤは翠の間近に腰を下ろした。

「はい、ちょっとごめんね」

言いながら、ひょいっと翠の頭を持ち上げ、自分の膝の上に置いた。

「な、何すんだよ……!?」

やっと意識を取り戻したらしい翠が、慌てて起き上がろうとした。

「黙って横になって。こっちの方が食べやすいでしょ」

がしっ、と翠の頭を押え付け、粥を匙で掬う。
自分でも声が冷たいのが良く分かった。

「ほら、口開けて。食べなきゃ離さないからね」

「うっ……」

淡々と言いながら匙を差し出すと、翠は言葉を詰まらせた。

カヤの顔、そして匙を交互に見やっている。

「早く」

催促すると、ようやく諦めたのか素直に口を開けた。
その咥内に粥を運ぶと、翠は眼を伏せたまま嚥下させた。

「はい良い子」

幼子のようにわざと額を撫でてやると、膝の上の翠は色々と耐え切れなくなったのか、両手で顔を覆ってしまった。

「……なんだよこれ、勘弁しろよ……」

指の隙間から見える頬が、僅かに赤い。
熱のせいだけではなかろう。

(ふん。良い気味だ)

少しは恥ずかしい思いをすれば良いんだ。
カヤだけならまだしも、タケルにまであんな顔をさせた報いを受ければ良い。


「勘弁しません」

むっつりと言葉を落とすと、翠はゆるゆると顔から手を退けた。

普段は凛としているはずの眉は可愛らしく下がっていて、なんだか切ない表情をしている。

「……怒ってるのか、カヤ……?」

拗ねたような、ともすれば甘えるような口調にカヤは頬を引き攣らせた。
なんて言う卑怯な声を出すんだ。


「っ、怒ってるに決まってるでしょ!」

ぷいっと翠から顔を背けながら、カヤは必死にぷりぷりした態度を続けた。

「辛いなら辛いってちゃんと言ってよ。そうじゃなきゃ力になれないでしょ。どうしてそんなに人を頼ろうとしないの?」

いつもいつもそうだ。

カヤに無茶はするなと言ってくるくせに、それを丸っとそのまま実行に移しているのは翠の方じゃないか。


(本当は、考える暇も無く縋り付いて欲しい)

無意識に翠が手を伸ばした先に居るのが、カヤでありたい。
図々しいと分かっているけれど願わずにはいられないのだ。

――――そう思うのは、翠だからなのに。



「それともやっぱり、私じゃ頼りないの……?」

思わず口から漏れ出たのは、惨めな弱音だった。

馬鹿だ、と一瞬後には後悔した。
こんな事は、今言うべきではない。