【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「だって、カヤちゃん」

ずいっとナツナがカヤの顔を覗き込んできた。

「カヤちゃんの瞳、まるで宝石みたいなのですよ。見ていると吸い込まれちゃいそうなくらい綺麗です。ね、ミナト?」

いきなり話を振られたミナトは「は!?」と声を上げる。
バチッと眼が合った瞬間、思いっきり顔を逸らされてしまった。


ナツナの言葉はありがたかったが、自分ではとてもそうは思えない。
可能ならば、自分の瞳など、深い深い黒に塗り潰してしまいたいほどだ。

「私は、ナツナの真っ黒な眼の方が好きだけどなあ。朝露に濡れた烏の羽みたいで、綺麗だもん」

そうぼやくと、ナツナが華のように笑った。

「うふふ。では私達、両想いですねえ」

はにかむような笑顔は、カヤを悶えさせるのに威力十分だった。

思わずナツナを抱き締めていると、ミナトは「ごゆっくり」と肩をすくめながら去っていったのだった。











「わっ」

「おお、カヤか」

ナツナと別れたカヤが、ようやく翠の部屋に戻ると、入口でタケルと鉢合った。

何やら旅用の衣を身に着けている。
そう言えば、公務のために数日屋敷を空けると言っていた事を思い出した。

「もう行かれるのですね。お気をつけて行ってきて下さい」

「うむ。翠様を頼んだぞ」

そう言って足早に去っていくタケルの背中を見送る。

以前は絶対に名前で呼んでくれなかったし、信用したような言葉なんて投げかけて貰えなかった。

だが二人で話をしたあの日から、タケルは随分とカヤに親しく接してくれるようになった。

顔も知らない人達から話しかけられる事に比べると、その喜びは雲泥の差である。


嬉しくて頬を緩めながら部屋に入ると、翠は今日も机に向かっていた。

「ああ、カヤ。遅かったな」

「ごめん。ちょっとね……」

そう口にしてから気が付く。

そう言えば、翠と2人きりになったのは随分久しぶりだ。
なんなら最後に素の方の翠と話したのは、あの洞窟の日が最期かもしれない。

最近は、この部屋に一緒に住んでいるのでは、と疑わしく思うほどにタケルが入り浸っていたのだ。


「なんかあったか?」

筆を走らせながらも翠が言う。

一瞬、先ほどの『賭け事』の事を口に出そうとしたが、思い直した。

別に大した問題ではないが、翠は心配するかもしれない。
忙しい翠に余計な気苦労をかけたくなかった。

それに自分が気を付けていれば済む話しだ。

「ううん、何にも」

だからそう言った。

翠は筆を止め、顔を上げた。
「ほんとか?」とでも言うような疑わしい眼を向けてきたので、カヤは何てことの無いような表情を繕った。