「き、君は……」
あれほど離れなかった男の手が、一瞬で肩から離れた。
カヤは二人の登場に、ほっと胸を撫で下ろした。
ミナトは鋭く男達を睨みつけながら、低い声で言う。
「てめぇら、翠様の世話役にちょっかい出すとは良い度胸してんな」
「……ちょっかい?何の事か分からないな。僕達はただ後学のために、彼女から隣国の事を聴こうとしていただけで……」
「ほー……それで家に連れ込もうとしてたってわけか。後学ためにねえ?」
どうやらかなり初めの方から会話を聞かれていたらしかった。
嫌味のようなミナトの言葉に、しかし男達も食い下がる。
「家の方が落ち着いて話しが出来るだろう?嫌だなあ、これだから剣ばかり振るっている人間は……思いやりの欠片も無い」
呆れたように言われ、ミナトの目元が心底苛ついたようにピクリと動いたのが分かった。
(あ、完全に怒った)
そう悟った瞬間、その鍛え抜かれた腕が男の胸倉を掴んだ。
「おめぇらみたいな銭勘定しか出来ねえ奴らに言われる筋合いはねえんだよ」
カヤすらなかなか聞かないほどの、乱暴な口調で吐き捨てる。
柄の悪いごろつきのようなその姿は、とてもそれなりの位に就いているようには見えない。
「ミナト、乱暴は駄目なのですよ」
カヤが何かを言う前に、ナツナがミナトの服を、くいくいと引っ張った。
それに乗じて胸倉を捕まれたままの男は、慌てたように言う。
「そうだぞ、離せよ、この野蛮人っ」
「ああ?よっぽど殴られてぇみたいだな?」
「まあまあ、もう止めるのですよ。ほら、ミナト!離すのです!」
ナツナは勇敢にも2人の間に割り込み、ベリッと引き裂いた。
彼女は見かけによらず結構力持ちなのだ。
距離を取ったとは言え、未だ双方は睨みあっている。
その中心に立つナツナは、男達に向かってニッコリと笑いかけた。
「ミナトが粗暴な事をしてしまい申し訳無いのです。貴方達は、ただカヤちゃんとお話ししたかっただけなのですよねえ」
敵意の無いナツナの態度に、男たちは毒牙を抜かれたような表情になる。
「あ、ああ、その通りだよ。ただ彼女と仲良くなりたかっただけさ」
「そうですよねえ……ならば翠様がいらっしゃる時にお声掛け頂くのが確実でございますよ」
「え?」
さらりと言われ、男達は目を瞬いた。
カヤもミナトもだ。
ナツナは万遍の笑みを崩す事なく、言葉を続ける。
「カヤちゃんは翠様のご承諾無くして勝手な行動は出来ないのですよ。そりゃあそうですよね。カヤちゃんに近づく不審な者は、翠様に近づこうとしている不審な者と見なされますから」
「ぼ……僕たちは、そんなつもりじゃ……」
「そうですか。だったら――――」
朗らかだったナツナの声が、僅かに低くなった。
「先ほどと同じ事を翠様の前ですると良いのですよ。やましい気持ちなんて無いのでしょう?」
ニコニコとした笑顔は一切変わらないはずなのに、その声には、はっきりと軽蔑の色が浮かんでいた。
ひやりとした空気が辺りに漂う。
「……っ、もう行こう」
その空気に耐え切れなくなったらしい男達は、足早にその場を去っていった。
「お怪我はありませんですか?」
男達の姿が完全に消えると、ナツナが心配そうに問いかけて来た。
全くと言っていいほど、普段のナツナだ。
あれほど離れなかった男の手が、一瞬で肩から離れた。
カヤは二人の登場に、ほっと胸を撫で下ろした。
ミナトは鋭く男達を睨みつけながら、低い声で言う。
「てめぇら、翠様の世話役にちょっかい出すとは良い度胸してんな」
「……ちょっかい?何の事か分からないな。僕達はただ後学のために、彼女から隣国の事を聴こうとしていただけで……」
「ほー……それで家に連れ込もうとしてたってわけか。後学ためにねえ?」
どうやらかなり初めの方から会話を聞かれていたらしかった。
嫌味のようなミナトの言葉に、しかし男達も食い下がる。
「家の方が落ち着いて話しが出来るだろう?嫌だなあ、これだから剣ばかり振るっている人間は……思いやりの欠片も無い」
呆れたように言われ、ミナトの目元が心底苛ついたようにピクリと動いたのが分かった。
(あ、完全に怒った)
そう悟った瞬間、その鍛え抜かれた腕が男の胸倉を掴んだ。
「おめぇらみたいな銭勘定しか出来ねえ奴らに言われる筋合いはねえんだよ」
カヤすらなかなか聞かないほどの、乱暴な口調で吐き捨てる。
柄の悪いごろつきのようなその姿は、とてもそれなりの位に就いているようには見えない。
「ミナト、乱暴は駄目なのですよ」
カヤが何かを言う前に、ナツナがミナトの服を、くいくいと引っ張った。
それに乗じて胸倉を捕まれたままの男は、慌てたように言う。
「そうだぞ、離せよ、この野蛮人っ」
「ああ?よっぽど殴られてぇみたいだな?」
「まあまあ、もう止めるのですよ。ほら、ミナト!離すのです!」
ナツナは勇敢にも2人の間に割り込み、ベリッと引き裂いた。
彼女は見かけによらず結構力持ちなのだ。
距離を取ったとは言え、未だ双方は睨みあっている。
その中心に立つナツナは、男達に向かってニッコリと笑いかけた。
「ミナトが粗暴な事をしてしまい申し訳無いのです。貴方達は、ただカヤちゃんとお話ししたかっただけなのですよねえ」
敵意の無いナツナの態度に、男たちは毒牙を抜かれたような表情になる。
「あ、ああ、その通りだよ。ただ彼女と仲良くなりたかっただけさ」
「そうですよねえ……ならば翠様がいらっしゃる時にお声掛け頂くのが確実でございますよ」
「え?」
さらりと言われ、男達は目を瞬いた。
カヤもミナトもだ。
ナツナは万遍の笑みを崩す事なく、言葉を続ける。
「カヤちゃんは翠様のご承諾無くして勝手な行動は出来ないのですよ。そりゃあそうですよね。カヤちゃんに近づく不審な者は、翠様に近づこうとしている不審な者と見なされますから」
「ぼ……僕たちは、そんなつもりじゃ……」
「そうですか。だったら――――」
朗らかだったナツナの声が、僅かに低くなった。
「先ほどと同じ事を翠様の前ですると良いのですよ。やましい気持ちなんて無いのでしょう?」
ニコニコとした笑顔は一切変わらないはずなのに、その声には、はっきりと軽蔑の色が浮かんでいた。
ひやりとした空気が辺りに漂う。
「……っ、もう行こう」
その空気に耐え切れなくなったらしい男達は、足早にその場を去っていった。
「お怪我はありませんですか?」
男達の姿が完全に消えると、ナツナが心配そうに問いかけて来た。
全くと言っていいほど、普段のナツナだ。