怒ってないよ、と。
気にしてないよ、と。
そう言った所で優しい翠は、ずっと申し訳無さを感じるだろう。
(そうじゃない)
翠の心も、カヤの心も、晴らしてくれるのはそんな言葉では無いと思った。
カヤは、ゆっくりと立ち上がった。
そして翠から一歩離れたところに再び足を揃えて座った。
「……翠様」
真っすぐに翠を見つめる。
何かを感じ取ったらしい翠もまた、正座をしてカヤに向き直ってくれた。
「この度は、助けてくださって本当にありがとうございました」
両手を付き、深々と頭を下げる。
本当は一番初めに言わなければいけなかっただろうに、随分礼を言うのが遅くなってしまった。
「貴方様のおかげで、私はあの国から逃れる事が出来ました。この感謝はいくら言葉にしても足りない程です」
ただの世話役である自分なんかのために手を尽くしてくれた翠。
何も持たないカヤは、物で恩返しをする事は出来ない。
だから、せめて。
「翠様のお世話役になると決めた日、私は"大陸に行くまでの準備期間だけで良ければ"と言いましたが、どうか撤回をさせて下さい」
かつて、"民の幸福"が夢だと言った翠。
それに向かって振り返る暇もなく進んでいく彼には、到底追いつけないだろう。
しかし、もしも翠がふと疲れて歩みを止めた時にこそ。
「私の命が続く限り、必ずや貴方様の夢が叶うのを見届けます」
ようやく追いついて、黙って傍らに立ちたい。
そうして息を整え、歩き出す彼の背をまた追いたい。
「……そなたが申していた夢は良いのか?」
翠は、いつか大陸に行って同じ髪色の人達と住みたいと言っていたカヤの夢を気にしているようだった。
確かに、いつ翠の夢が叶うのかは分からない。
見届ける前にこの命は絶えるかもしれない。
それでも良いと本気で思えた。
翠が叶える夢の先に、カヤが欲し続けていた願望が手を広げて待っている気がしてならないのだ。
だからどうか、どうか、私の追いかけるべき存在となって下さい。
「貴方の夢が叶うのを見届けた後、お暇を頂ければと存じます」
そう言葉を落としたカヤに、翠は意表を突かれた表情をした。
しかしすぐに肩を揺らして笑いだす。
「成程な。承知した」
可笑しそうに眉を下げて、それから気高く笑みを浮かべて。
「その時には、余る程やろう」
そうして契りを重ねる。
細い糸で繋がり、二人を絡め、二度と千切れる事のない枷として。
(それが私の感謝の示し方だよ、翠)
そして、この腕に抱くたった1つの意志であると信じて。
それからたっぷりと時間が経った頃、翠とカヤが焚火を囲んで座っていると、ようやくタケルが戻ってきた。
「……お灸の方は据え終わりましたかな?」
洞窟の入口から恐る恐る顔だけ出してそう問いかけて来たタケルに、翠が薄く笑った。
「火傷しない程度にはな」
残念ながら大火傷に近かったのだが。
カヤは心の中で否定しておきながらも、勿論黙っておいた。
タケルは、大泣きしたせいで赤くなっているのであろうカヤの目元をチラリと見て、複雑そうな表情を見せた。
「ほお……左様でございますか」
翠の言葉を完全に疑っているようだったが、何も言わない方が吉だと悟ったらしい。
それ以上は言及せず洞窟に入ってくると、何やら腕いっぱいに抱えていた物を翠に見せてきた。
「翠様、これを。兵達からでございます」
タケルが抱えていたのは、大量の薬草や果実であった。
気にしてないよ、と。
そう言った所で優しい翠は、ずっと申し訳無さを感じるだろう。
(そうじゃない)
翠の心も、カヤの心も、晴らしてくれるのはそんな言葉では無いと思った。
カヤは、ゆっくりと立ち上がった。
そして翠から一歩離れたところに再び足を揃えて座った。
「……翠様」
真っすぐに翠を見つめる。
何かを感じ取ったらしい翠もまた、正座をしてカヤに向き直ってくれた。
「この度は、助けてくださって本当にありがとうございました」
両手を付き、深々と頭を下げる。
本当は一番初めに言わなければいけなかっただろうに、随分礼を言うのが遅くなってしまった。
「貴方様のおかげで、私はあの国から逃れる事が出来ました。この感謝はいくら言葉にしても足りない程です」
ただの世話役である自分なんかのために手を尽くしてくれた翠。
何も持たないカヤは、物で恩返しをする事は出来ない。
だから、せめて。
「翠様のお世話役になると決めた日、私は"大陸に行くまでの準備期間だけで良ければ"と言いましたが、どうか撤回をさせて下さい」
かつて、"民の幸福"が夢だと言った翠。
それに向かって振り返る暇もなく進んでいく彼には、到底追いつけないだろう。
しかし、もしも翠がふと疲れて歩みを止めた時にこそ。
「私の命が続く限り、必ずや貴方様の夢が叶うのを見届けます」
ようやく追いついて、黙って傍らに立ちたい。
そうして息を整え、歩き出す彼の背をまた追いたい。
「……そなたが申していた夢は良いのか?」
翠は、いつか大陸に行って同じ髪色の人達と住みたいと言っていたカヤの夢を気にしているようだった。
確かに、いつ翠の夢が叶うのかは分からない。
見届ける前にこの命は絶えるかもしれない。
それでも良いと本気で思えた。
翠が叶える夢の先に、カヤが欲し続けていた願望が手を広げて待っている気がしてならないのだ。
だからどうか、どうか、私の追いかけるべき存在となって下さい。
「貴方の夢が叶うのを見届けた後、お暇を頂ければと存じます」
そう言葉を落としたカヤに、翠は意表を突かれた表情をした。
しかしすぐに肩を揺らして笑いだす。
「成程な。承知した」
可笑しそうに眉を下げて、それから気高く笑みを浮かべて。
「その時には、余る程やろう」
そうして契りを重ねる。
細い糸で繋がり、二人を絡め、二度と千切れる事のない枷として。
(それが私の感謝の示し方だよ、翠)
そして、この腕に抱くたった1つの意志であると信じて。
それからたっぷりと時間が経った頃、翠とカヤが焚火を囲んで座っていると、ようやくタケルが戻ってきた。
「……お灸の方は据え終わりましたかな?」
洞窟の入口から恐る恐る顔だけ出してそう問いかけて来たタケルに、翠が薄く笑った。
「火傷しない程度にはな」
残念ながら大火傷に近かったのだが。
カヤは心の中で否定しておきながらも、勿論黙っておいた。
タケルは、大泣きしたせいで赤くなっているのであろうカヤの目元をチラリと見て、複雑そうな表情を見せた。
「ほお……左様でございますか」
翠の言葉を完全に疑っているようだったが、何も言わない方が吉だと悟ったらしい。
それ以上は言及せず洞窟に入ってくると、何やら腕いっぱいに抱えていた物を翠に見せてきた。
「翠様、これを。兵達からでございます」
タケルが抱えていたのは、大量の薬草や果実であった。