コウの歩調は少し驚いてしまうくらい、ゆったりとしていた。
それは恐らく、後ろを着いていくカヤを気遣ってのものだろう。

さく、さくと草を踏みしめる音が、2人分響く。
コウもカヤも、会話はしなかった。


(何かを話した方が良いんだろうか)

気まずい雰囲気でも無いが、無言というのも何かむず痒い。


カヤは、前を行く背中をチラリと見やった。

頭から被っている布のせいで少し分かりにくいが、コウの身体はタケルやミナトのように、がっしりとしたものではなく、どちらかと言うと細身のように見えた。

だからと言って女性のような頼りなさを感じるわけでも無い。
腰から真っすぐ伸びる背筋には控えめに筋肉が付いていて、しなやかなものだった。


背後を歩いているのを良い事に、その身体を穴が空くほど見つめていたカヤは、とある事に気が付いた。

コウの歩き方が何やら独特で、しかもその歩き方に見覚えがあったのだ。

(あれ……もしかして、この人……)

ふと、カヤの中で一つの仮説が産まれた時だった。


「――――おい、見つけたぞ!」

唐突に前方から聞こえてきたその怒声に、カヤは驚いて足を止めた。

いつの間にか2人は森の出口にまで辿り着いていた。
道の先に、ぼんやりとした村灯りが見える。

その灯りに薄く照らされながら、3つの影がまるで2人を待ち構えるように立っていた。

どう見ても先ほどカヤを追い回してくれたあいつ等だった。


「げっ」

まさか待ち伏せするほどしつこいとは思っていなかった。
思わず、数歩後ずさりをする。


「カヤ、下がってろ」

「わっ」

ぐいっと腕を引っ張られ、あっと言う間にコウの背中側に立たされた。

「この娘になんの用だ?」

まるで男達からカヤを隠すかのように立つコウは、静かに口を開いた。

「……髪を貰う」

「貰ってどうする」

「売って金にする。お前は何だ?この小娘の仲間か?」

警戒しているような男の質問を、コウはさらりと無視した。

「金が必要なのか?お前達は豪族から平等に土地を与えられているんだろう。それで十分に生活出来るんじゃないのか?」

コウの言葉に、男達は吐き捨てるような嘲笑を見せた。

「お前、よそ者だな?膳の野郎が俺達に与える土地なんざ、雀の涙ほどだ。村の奴らなら大抵知ってる」

「……なんだと?」

コウが訝し気な声を出した。

男達の口から出て来た『膳』と言う名前に、嫌と言うほど聞き覚えがあった。
昨日カヤを人攫いの男から買おうとした、あの髭親父だ。

2人の会話から察するに、どうやらこの国では豪族から民に土地が与えられるらしい。

そして、あの膳とか言う男が豪族か。
成程。確かにとんでもなく偉そうで、金に煩そうな男ではあった。

本来ならば、平等に民に与えなければいけない土地を、私腹のために囲っているのだろう。