(……あ、指が)
ふと気が付く。
翠の美しい指は組まれ、こちらから見ても分かるくらいに力が込められていた。
爪が、白い。
嗚呼、綺麗な肌に爪痕が付いてしまう。
それが惜しくて、カヤは翠の手にそっと触れた。
ぴくりと白い手が揺れた。
「ってわけで、この国は可笑しいの。特にハヤセミは」
一本一本、強張るその指を優しく剥がしながら、カヤは言う。
「だから翠はこの国に嫁に来ちゃ行けない。いつか必ず殺される」
全てを剥がし終えたが、やはり翠の手の甲には爪痕が残ってしまっていた。
それに痛々しさを感じ、眉を寄せながら顔を上げる。
翠は、やけに無表情に真正面を見つめていた。
その横顔からは、今翠がどんな感情を抱いているのか、よく感じ取れなかった。
ひとまず、カヤが伝えたかった事は、全て伝えたつもりだった。
ここまで言えば、きっと翠は考えを改めてくれる。
恐らく今は、どうやって一度は承諾した話を白紙に戻すか、頭を回転させているのだろう。
考えを邪魔したくなかったカヤは、黙って目の前の床を見つめた。
(……この石床のどっかの隙間に、ミズノエの血が染み込んでるだろうなあ)
一度だけ寂しさで死にそうになって、床を這いつくばって探したっけ。
けれど空に浮かぶ月の灯りだけじゃ、暗くて。
一晩中頑張ったけれど、遂にミズノエの痕跡は見つけられなかった。
あの頃の押しつぶされそうな気持を思い出していると、やがて翠が口を開いた。
「……ごめん、カヤ」
"やはり嫁に行くのは止めるよ"、と。
そのような言葉が続くのだろうと先読みしながら耳を傾ける。
しかし、翠が言い出したのは見当違いな言葉だった。
「あの髪飾り、そんなに大切な物だったんだな」
申し訳なさそうな声と共に、これまた申し訳なさそうな瞳が、こちらを向いた。
あれ、そっち?
予想していなかったそれに、カヤの口が思わずぱかりと空く。
「俺のせいで、本当にごめん」
消え入りそうな声は、らしく無さすぎて。
(翠に、二度も謝らせてしまった)
その美しい肌に、爪痕を残させてしまった事が酷く辛い。
ふと気が付く。
翠の美しい指は組まれ、こちらから見ても分かるくらいに力が込められていた。
爪が、白い。
嗚呼、綺麗な肌に爪痕が付いてしまう。
それが惜しくて、カヤは翠の手にそっと触れた。
ぴくりと白い手が揺れた。
「ってわけで、この国は可笑しいの。特にハヤセミは」
一本一本、強張るその指を優しく剥がしながら、カヤは言う。
「だから翠はこの国に嫁に来ちゃ行けない。いつか必ず殺される」
全てを剥がし終えたが、やはり翠の手の甲には爪痕が残ってしまっていた。
それに痛々しさを感じ、眉を寄せながら顔を上げる。
翠は、やけに無表情に真正面を見つめていた。
その横顔からは、今翠がどんな感情を抱いているのか、よく感じ取れなかった。
ひとまず、カヤが伝えたかった事は、全て伝えたつもりだった。
ここまで言えば、きっと翠は考えを改めてくれる。
恐らく今は、どうやって一度は承諾した話を白紙に戻すか、頭を回転させているのだろう。
考えを邪魔したくなかったカヤは、黙って目の前の床を見つめた。
(……この石床のどっかの隙間に、ミズノエの血が染み込んでるだろうなあ)
一度だけ寂しさで死にそうになって、床を這いつくばって探したっけ。
けれど空に浮かぶ月の灯りだけじゃ、暗くて。
一晩中頑張ったけれど、遂にミズノエの痕跡は見つけられなかった。
あの頃の押しつぶされそうな気持を思い出していると、やがて翠が口を開いた。
「……ごめん、カヤ」
"やはり嫁に行くのは止めるよ"、と。
そのような言葉が続くのだろうと先読みしながら耳を傾ける。
しかし、翠が言い出したのは見当違いな言葉だった。
「あの髪飾り、そんなに大切な物だったんだな」
申し訳なさそうな声と共に、これまた申し訳なさそうな瞳が、こちらを向いた。
あれ、そっち?
予想していなかったそれに、カヤの口が思わずぱかりと空く。
「俺のせいで、本当にごめん」
消え入りそうな声は、らしく無さすぎて。
(翠に、二度も謝らせてしまった)
その美しい肌に、爪痕を残させてしまった事が酷く辛い。
