【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「私を抱いて、かか様はこの砦から逃げようとした。けれど、あと少しの所で兵に捕まって……」

あの日、滅多に無いような強風の影響で砦の一部が崩壊していた。
人員はそちらに割かれ、砦の警備は普段よりも手薄になっていたらしい。

かか様は、その機会を見逃さなかった。


『かか様、怖いよ、怖いよ』

『喋っちゃ駄目っ……ほら、もう少しでお外だから……』

かか様はカヤを抱えながら、暗闇の中をひたすらに走った。

未だかつてない程に砦の入口付近にまで近づいていて、なんならカヤの目には出口が見えていた。

『お外……?』

耐え切れなくて、手を伸ばした。

温かな太陽。
鼻孔を満たす草の香り。
何の隔たりも無い自由。

求める事すら許されなかったそれらが、確かに目と鼻の先にぶら下がっていた。

例えその先に、今以上の苦難があるのだとしても。

かか様と2人なら、絶対に我慢できると感じた。


『お外だ!かか様、ほら、お外が見えるよ――――』

――――でも、伸ばした手は無情にも届かなった。




『いやぁあああ!放してっ、放してええええ!』

かか様の恐怖に満ちた絶叫。

『殺せ!今すぐにこの女を殺せっ……!』

王の怒り狂った咆哮。


やめて、やめて、やめて。
かか様を放して下さい。

もう二度と外を望んだりしない。
お祈りも毎日ちゃんとする。

だからせめて、その人を奪わないで。


『かか様……』

『っカヤ、カヤ……!』

『かか様っ……かか様!』

『カヤ―――――……!』

『かかさまぁああああっ―――――……!』


耳をつんざくのは、2つの悲鳴。
長い長い叫びは重なり合って、永遠に続くようにも思えた。

『いやだあああああ!かか様ぁあああ!』

気が付けば叫んでいたのは、もうカヤだけだった。



「……人間の首って、あんなに呆気なく飛ぶんだなって思った」

今でも強烈に網膜に焼き付いている。

その頭が宙を待って、地面に転がって、瞳に宿っていた光が消えても、尚。
かか様の瞳は、カヤを見つめ続けていた。

ぽたり。
柔和な瞳から、赤い涙が零れて頬を這っていた。

それは酷く久しぶりに目にした、かか様の泣き顔。

酷く混乱していた。
私が呼びかけるべきなのは、かか様のお顔?それとも体?

その唇で呼んでもらいたいのに。
その腕に抱いてもらいたいのに。

嗚呼、一体私は、二つになってしまったかか様の、どちらに縋るべきだろう?