カヤは何度か浅い呼吸を繰り返した。
翠は、カヤが何か言うのを黙って待ってくれている。
(ちゃんと全部言わなきゃ駄目だ)
ぐっと生唾を呑みこんで、そして奮い立たせるように口を開いた。
「……5歳の時、とと様が殺された」
自分の口から出てきた言葉は、まるで他人事のように思えた。
なぜなら、カヤはその現場を直接目撃したわけではなかったからだ。
「村へ帰りたいって私が毎日泣くから、とと様が、もう帰らせてくれって先代の王に進言してくれたの……それが、きっかけで」
あの頃は、別にひもじい思いも、酷い扱いも受けていたわけではなかった。
けれど、がんじがらめにされる閉塞感に、幼い私は耐え切れなかった。
『とと様……?どこへ行くの?』
とと様を最後に見たのは、拘束され連行されていく背中。
かか様はカヤの隣で泣き崩れていて。
まるで、悲痛を具現化したような叫び声がとても恐ろしかった。
『お前の父親は良い見本となったな、クンリク。二度と馬鹿げた事を言って我々を怒らせるな』
しばらくして、部屋にやってきた王は、カヤ達に向かってそう言った。
その言葉の意味は良く分からなかったし、ただただ、とと様はいつ帰ってくるのだろうと感じた事を覚えている。
でも夜になっても、次の日になっても、とと様は永遠に帰ってこなかった。
『ねえ、かか様……とと様は?』
『……カヤ。これからは、かか様が貴女を守るからね』
そう言って抱きしめてくれる腕は、小刻みに震えていた。
その瞬間、カヤは自分が何をしでかしたのか、やっと理解した。
そして悟ったのだ。
「多分、私は、一生砦の外には出られないんだろうなって思った」
冷たく無機質なこの場所が、自分の棺桶になるのだと。
「毎日怖くて泣いてて、それでも王様に殺されるのが嫌で、大人しく従ってた」
泣きすぎて眠れない夜は、必ずかか様がカヤを一晩中抱いてくれていた。
『さあ、眼を閉じて。かか様がずっと傍に居るから』
額に口づけを落として、背中を何度も撫でてくれる。
温かく優しいその体温に包まれると、不思議と涙も止まった。
かか様は、とても強かった。
とと様が死んだと聞かされた日以降、一度もカヤの前では涙を流していなかった。
だからカヤも安心しきって、その腕の中で甘え続けた。
「……でも、かか様は、多分とと様が死んじゃった時から可笑しくなってたんだと思う」
そんな事があって、絶望しないはずが無い。
きっとかか様は、触れれば崩れてしまいそうな程に脆くなっていた。
(何かが壊れるのは、当然だ)
それでも、ただただ生きようと。
生きて、カヤを守ろうと。
「私が7歳の時だった」
その日、いつものように熟睡していたカヤは、真夜中かか様に揺り動かされて眼を覚ました。
風の強い日だった事を覚えている。
窓の外で、轟轟と大きな唸りが聞こえる中、かか様はカヤに小さく囁いた。
「かか様は、私に"逃げよう"って言ったの」
どういう心境の変化があったのか。
今となっては、全く分からない。
以前からずっと画策していたのかもしれないし、衝動的なものだったのかもしれない。
だけどきっと、毎日泣き続ける我が子が原因だったのは間違いなかった。
『だって、もう泣くのは嫌でしょう、カヤ?』
混乱するカヤに、かか様は優しくそう言った。
あの頃は、それがどれだけ危険な事かも知らずに、素直に頷いた。
カヤが頷かなければ、かか様は考え直してくれたのかもしれない。
今となっては、もうどうしようもないが。
翠は、カヤが何か言うのを黙って待ってくれている。
(ちゃんと全部言わなきゃ駄目だ)
ぐっと生唾を呑みこんで、そして奮い立たせるように口を開いた。
「……5歳の時、とと様が殺された」
自分の口から出てきた言葉は、まるで他人事のように思えた。
なぜなら、カヤはその現場を直接目撃したわけではなかったからだ。
「村へ帰りたいって私が毎日泣くから、とと様が、もう帰らせてくれって先代の王に進言してくれたの……それが、きっかけで」
あの頃は、別にひもじい思いも、酷い扱いも受けていたわけではなかった。
けれど、がんじがらめにされる閉塞感に、幼い私は耐え切れなかった。
『とと様……?どこへ行くの?』
とと様を最後に見たのは、拘束され連行されていく背中。
かか様はカヤの隣で泣き崩れていて。
まるで、悲痛を具現化したような叫び声がとても恐ろしかった。
『お前の父親は良い見本となったな、クンリク。二度と馬鹿げた事を言って我々を怒らせるな』
しばらくして、部屋にやってきた王は、カヤ達に向かってそう言った。
その言葉の意味は良く分からなかったし、ただただ、とと様はいつ帰ってくるのだろうと感じた事を覚えている。
でも夜になっても、次の日になっても、とと様は永遠に帰ってこなかった。
『ねえ、かか様……とと様は?』
『……カヤ。これからは、かか様が貴女を守るからね』
そう言って抱きしめてくれる腕は、小刻みに震えていた。
その瞬間、カヤは自分が何をしでかしたのか、やっと理解した。
そして悟ったのだ。
「多分、私は、一生砦の外には出られないんだろうなって思った」
冷たく無機質なこの場所が、自分の棺桶になるのだと。
「毎日怖くて泣いてて、それでも王様に殺されるのが嫌で、大人しく従ってた」
泣きすぎて眠れない夜は、必ずかか様がカヤを一晩中抱いてくれていた。
『さあ、眼を閉じて。かか様がずっと傍に居るから』
額に口づけを落として、背中を何度も撫でてくれる。
温かく優しいその体温に包まれると、不思議と涙も止まった。
かか様は、とても強かった。
とと様が死んだと聞かされた日以降、一度もカヤの前では涙を流していなかった。
だからカヤも安心しきって、その腕の中で甘え続けた。
「……でも、かか様は、多分とと様が死んじゃった時から可笑しくなってたんだと思う」
そんな事があって、絶望しないはずが無い。
きっとかか様は、触れれば崩れてしまいそうな程に脆くなっていた。
(何かが壊れるのは、当然だ)
それでも、ただただ生きようと。
生きて、カヤを守ろうと。
「私が7歳の時だった」
その日、いつものように熟睡していたカヤは、真夜中かか様に揺り動かされて眼を覚ました。
風の強い日だった事を覚えている。
窓の外で、轟轟と大きな唸りが聞こえる中、かか様はカヤに小さく囁いた。
「かか様は、私に"逃げよう"って言ったの」
どういう心境の変化があったのか。
今となっては、全く分からない。
以前からずっと画策していたのかもしれないし、衝動的なものだったのかもしれない。
だけどきっと、毎日泣き続ける我が子が原因だったのは間違いなかった。
『だって、もう泣くのは嫌でしょう、カヤ?』
混乱するカヤに、かか様は優しくそう言った。
あの頃は、それがどれだけ危険な事かも知らずに、素直に頷いた。
カヤが頷かなければ、かか様は考え直してくれたのかもしれない。
今となっては、もうどうしようもないが。
