【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

暗闇の中で強烈に光を放つそれを、知ってしまった。
空っぽの自分はそれに向かって必死に足を動かすしか無いのに。

嫌なんだ。
もう、自分の行き先が分からなくなるのが、耐えられないんだ。


「……っ、翠が殺されるのは、嫌だ……!」


どうか、醜悪な私の道標で在り続けて欲しい。



――――ぱたっ、ぱた。
何かから逃げるように閉じた掌の隙間から、透明の雫が滴った。

それは次から次に溢れて、とめどなく指先を、手首を濡らす。
形を伴わない嗚咽が、唇を飛び出してきた。


「……それ、どういう意味だ?」

戸惑ったように言った翠が、優しくカヤの手首を掴んで退けようとしてくる。

「お願い、翠……逃げてっ……こんなの、駄目だ……!」

しきりに呟くカヤは、激しく首を横に振った。

何が何でも、翠の双眸を見たくはなかった。
そんな勇気が無かった。

「い、今すぐ逃げて……ねえ、翠……頼むから……!」

自分が何を口走っているのかさえ分からない。
壊れた涙腺が、頭の芯を狂わせて、可笑しくさせる。

ぐちゃぐちゃに感情が混ざりあって、しかし一つだけはっきりとした思いが強く訴えかけてきていた。

"この国に、翠を放り込んではいけない"

ただただ、それだけを。



「おい、どうしたカヤ!」

尋常ではないカヤの様子に、翠が無理やり顔をこじ開けようとしてきた。

「やだっ、見ないでっ……やだ!」

必死に抵抗したものの、翠の力には適わなくて、まんまと泣き顔が晒される。

翠の眼がカヤの目元を捉えた瞬間、その顔が衝撃を受けたように歪んだ。

「カヤ……」

呆然としたように、美しい唇が自分の名を紡ぐ。


(そんな顔で、そんな表情をしないでくれ)

言いようの無い苦しさに、また際限ない慟哭が押し寄せて来た。


「……す、翠はっ、あの国に必要なの、居なくちゃいけないの!絶対に!」

ぼろぼろと泣きじゃくりながら、カヤは喚いた。
捕まれたままの手首を放してほしくて暴れるけれど、屈強な手がそれを許さない。

嗚呼、無様な顔が、翠の瞳に映り続けてしまう。


「おいっ、一旦落ち着けって、カヤ……」

「この国に戻らなくちゃいけないのは私の方なのに、ごめんっ……私のせいで、ごめんなさい!」

ごめん、ごめんね。
あの時戻る事を躊躇して、ごめん。

早い段階でこの国に戻っていれば良かった。
あの温かい場所から、ちゃんと抜け出せば良かった。


――――いや、違う。

違う違う違う。違うんだ。
そもそもこの存在すら無ければ、きっと誰も。

「……っ私が生きてたせいで、ごめんなさい!」

ごめんなさい。



「――――――カヤッ!」

張り裂けそうな声と共に、強い力がカヤの体を攫った。
ぐんっと引き寄せられ、刹那甘い香りが鼻をかすめて。


「……す、い」

気が付けば、翠の腕の中に閉じ込められていた。