ずっとずっと、あの宴の最中、ずっとだ。
翠を問い詰めたくて、仕方が無かった。
「どうして、あんな事を言ったの」
なんて事ない顔をして、挙げ句の果てによく分からない契りまで交わして。
「私なんて、さっさと返してくれれば良かったのに」
(それに加えて、この部屋にもう一度足を踏み入れる事になるなんて)
受け止めきれないよう激流が、このひ弱な両足を攫おうと牙を剥きかけていた。
「……"私なんて"、か」
なぜ翠が、そう溜息交じりに呟いたのか、よく分からなかった。
「俺にとったら、カヤの存在って割と大きいんだけどな。多分、カヤの友達のナツナも、ユタも……きっと、ミナトもそう思ってる」
そんな優しい言葉を、そんな優しい眼で与えるのは、やめて欲しいのに。
「う、嘘だ……そんなわけない」
驚く程に貴方が柔らかいから、針だらけの私は、撥ね付けてしまう。
「だって私こんな髪してるし、これと言った長所も無いし、それに結局、誰かの役に立てもしなかったし……」
眉を下げて首を振ったカヤに、翠がゆっくりと手を伸ばした。
すっかり短くなってしまったカヤの金の髪を、白い指先が掬う。
その毛先を見て、翠が少し悲しそうな表情をした。
「そんなに自分を蔑ろにするなよ。カヤの事を大事に思う人間を、否定する事になる」
その言葉が、崩れかけの心に突き刺さった。
(そうだ。翠はいつだって正しい)
だからこそ、この人の言葉はこんなにも私を苦しくさせる。
切なさに黙り込むカヤを、翠は真っすぐに見つめる。
「前に俺が、カヤの髪を綺麗だって言った事、覚えてるか?」
その質問に小さく頷く。
稲穂みたいで綺麗だと言って褒めてくれた事も、あの時感じた嬉しさも、今でも鮮明に覚えていた。
「……あれ、撤回させてくれ」
翠が囁くように言う。
「確かにカヤは、まあ……物凄く器用とは言えないかもしれないし、たまに俺が予想もしない斜め上な事したりするけど」
優しさを体現したような眼差しが、届けてくれる。
今この時の、翠の感情を。
「カヤが綺麗なのは髪だけじゃない。どれだけ拙くても、自分なりの意志を持って生きるカヤ自身が、俺には綺麗に見えるんだ」
だから、返したくなかったんだよ、と。
落とされた言葉に呼吸の仕方を忘れてしまった。
もう駄目だった。もう限界だった。
(どうして。どうして、ねえ、どうしてっ……)
眩しくて、痛くて、眼が潰れそうだ。
確かな地位を持っていて、確かな能力を持っていて。
それ以上きっと何もしなくて良いだろうに、この人は、私なんかに手を差し伸べる。
(嗚呼、もう翠を見れない)
その優しさがとてもじゃないけど耐え切れなくて、カヤは眼を覆った。
翠を問い詰めたくて、仕方が無かった。
「どうして、あんな事を言ったの」
なんて事ない顔をして、挙げ句の果てによく分からない契りまで交わして。
「私なんて、さっさと返してくれれば良かったのに」
(それに加えて、この部屋にもう一度足を踏み入れる事になるなんて)
受け止めきれないよう激流が、このひ弱な両足を攫おうと牙を剥きかけていた。
「……"私なんて"、か」
なぜ翠が、そう溜息交じりに呟いたのか、よく分からなかった。
「俺にとったら、カヤの存在って割と大きいんだけどな。多分、カヤの友達のナツナも、ユタも……きっと、ミナトもそう思ってる」
そんな優しい言葉を、そんな優しい眼で与えるのは、やめて欲しいのに。
「う、嘘だ……そんなわけない」
驚く程に貴方が柔らかいから、針だらけの私は、撥ね付けてしまう。
「だって私こんな髪してるし、これと言った長所も無いし、それに結局、誰かの役に立てもしなかったし……」
眉を下げて首を振ったカヤに、翠がゆっくりと手を伸ばした。
すっかり短くなってしまったカヤの金の髪を、白い指先が掬う。
その毛先を見て、翠が少し悲しそうな表情をした。
「そんなに自分を蔑ろにするなよ。カヤの事を大事に思う人間を、否定する事になる」
その言葉が、崩れかけの心に突き刺さった。
(そうだ。翠はいつだって正しい)
だからこそ、この人の言葉はこんなにも私を苦しくさせる。
切なさに黙り込むカヤを、翠は真っすぐに見つめる。
「前に俺が、カヤの髪を綺麗だって言った事、覚えてるか?」
その質問に小さく頷く。
稲穂みたいで綺麗だと言って褒めてくれた事も、あの時感じた嬉しさも、今でも鮮明に覚えていた。
「……あれ、撤回させてくれ」
翠が囁くように言う。
「確かにカヤは、まあ……物凄く器用とは言えないかもしれないし、たまに俺が予想もしない斜め上な事したりするけど」
優しさを体現したような眼差しが、届けてくれる。
今この時の、翠の感情を。
「カヤが綺麗なのは髪だけじゃない。どれだけ拙くても、自分なりの意志を持って生きるカヤ自身が、俺には綺麗に見えるんだ」
だから、返したくなかったんだよ、と。
落とされた言葉に呼吸の仕方を忘れてしまった。
もう駄目だった。もう限界だった。
(どうして。どうして、ねえ、どうしてっ……)
眩しくて、痛くて、眼が潰れそうだ。
確かな地位を持っていて、確かな能力を持っていて。
それ以上きっと何もしなくて良いだろうに、この人は、私なんかに手を差し伸べる。
(嗚呼、もう翠を見れない)
その優しさがとてもじゃないけど耐え切れなくて、カヤは眼を覆った。
