【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

「カヤも私も"物"か?」

ふっ、と小さく笑い、翠がそう吐き捨てた。
その声色には、はっきりとした冷たさが滲んでいた。

「とんでもございません。お2人とも、我が国にとっては得難いお方です」

飄々と答えたハヤセミに、翠が眼を細めた。

「質問なのだが、両方拒否した場合はどうなる」

「そのような事、わざわざ言葉にせずとも翠様ならばお分かりになるのでは?」

まるで挑発するような物言いだった。

その場の誰もが、ハヤセミの言葉の意味に気が付いただろう。
つまりハヤセミは、暗に『攻め入る』と言っているのだ。

ピンと張り詰めた空気に、カヤの拳にじっとりと汗が滲んだ。

いけない。
このままでは、最悪の展開に向かっていってしまう。


「それは互いの国のためにならない」

静かに翠がそう言った。
ハヤセミもまた、ゆっくりとした口調で言葉を紡ぐ。

「ええ。しかし仮に貴女様がこの国に嫁ぎ、我らが同盟国になれば、互いに利がございましょう」

「と、言うと?」

「現在、我らの兵力は同等でございます。近国に比べれば僅かに抜きんでているでしょう。しかし万が一、近国同士が手を組めば、我らの国に勝ち目はございません」

「……しかし私達が同盟を結べば、その心配も無くなると」

「そうでございます。正直、悪いお話でも無いと考えております」

成程、ハヤセミの言わんとせん事は分かった。

確かに両国が手を結べば、近隣諸国のどの国よりも大国となるだろう。
そうなればまず、無謀にも攻め入ってくる安易な国は無くなる。

将来的に待っているのは安泰かもしれない。
けれど、それで翠が素直に頷くとも思えない――――


「どうだろうな。一つの国に二つの権力を置くなど、内戦の種を蒔くようなものだ」

翠の反論も正しい、と思った。

同等の力を持つ人間が2人居ては、民の敬意も二分割される。
やがてそれは対立し、無益な争いを産むだろう。

しかしハヤセミは意外にもニッコリと笑った。

「そこはご心配無く。我らは貴女様のお告げを絶対とするつもりでございます」

さらりと出て来たその言葉に不信感を感じたのは、カヤだけでは無かった。
翠もまた怪訝そうに眉を寄せながら、怪訝そうに言った。

「……では、もしそうなった場合、弥依彦殿のお立場は?」

弥依彦はこれまで一言も発していなかった。
大方ハヤセミに何も言うなと釘を押されていたのだろう。

だが、会話の内容が自分になったのだと気が付いた瞬間、待ってましたと言わんばかりに胸をドンッ!と叩いた。

「案ずるな!私は器が広いからな!安心してこの国のために尽力すると良い!」

大きく胸を張るその姿に、翠は「……そうか」とだけ言葉を落とした。
どこかず斜め上のその回答に、それ以上言葉が出てこないらしかった。