次の日、カヤ達は朝になると同時に国境の山を出発した。
カヤはまたリンに乗せてもらって、ミナトの腕にしがみつきながら乗馬に耐えた。
昨日よりは少し慣れたおかげで、叫ぶ声を上げる事は無かったし、ヤガミの毛皮のお陰で、お尻もなんとか無事だった。
隣国が近づくにつれて、緑は少なくなっていき、足元は固い岩が増えて来た。
ハヤセミ達の言う通り、あの国は崖が多く足場が悪い地帯なのだ。
そのまま走り続けると、やがて木々はほとんどなくなり、心なしか荒んだ景色に移り変わっていった。
そして太陽が丁度真上に昇った頃、ようやく崖の下に広大な村が現れた。
「着いたな」
後ろでミナトが呟いた。
「……うん」
低い声で頷く。
嗚呼、まさかこんな形で戻ってこようとは。
カヤは絶望的な気分で眼下に広がる村を見渡した。
崖に囲まれるようにしてあるその村には、石造りの家々が所狭しと立ち並んでいる。
そして右手側の崖沿いには、ひと際眼を引く壮大な砦があった。
自然の崖に、人工的な石製の砦がへばりついているようにも見える。
遥か昔に固い崖を切り開き、そこに対して砦を増築したのだと聞いた事があった。
あれこそが、正にカヤの地獄。
「皆様!お足元に気を付けながら降りて下さい!」
先頭を行っていたハヤセミがそう警告した。
その声にならうようにして、カヤ達は慎重に崖沿いの道を下り、村へと足を踏み入れた。
村人達は、道行くカヤ達を物珍し気に眺めた。
服や体が薄汚れている民が多い。
この国の周りでは鉱石が採取しやすいため、それを生業にしている人が多いためだ。
一日中岩を掘っているため勿論汚れるし、風で流れてくる土埃の影響で村はいつもどこか埃っぽかった。
かさつく空気の匂いも、全体的に色彩の暗いこの景色も、当たり前だけど変わっていない。
村人達の好機の眼に晒されながらも、カヤ達は砦へと辿り着いた。
真正面で見るその砦は圧巻の大きさで、翠のお屋敷と良い勝負だ。
馬を降りて、そのぽっかりと口を開ける入口を眺めていると、翠に呼ばれた。
「カヤ。こちらへ来なさい」
「はい」
内心、憂鬱さに呑みこまれそうになっていたため、翠の隣に立てて少し安心した。
「翠様。どうぞお入り下さい」
ハヤセミが、そう言って翠を中へ誘った。
翠は躊躇する事なく砦の中に足を踏み入れ、それに続くようにしてカヤとタケルも敷居をくぐった。
足を踏み入れると、そこは天井の高い大きな空間となっていた。
砦の奥に道を作るかのようにして、向かい合う兵たちが一直線に立っている。
「こちらでございます」
ハヤセミが先頭を切って、その兵と兵の間を歩いていく。
どうやら砦の奥にカヤ達を案内するつもりのようだ。
この奥を進めば広間がある。
恐らく弥依彦はそこに居るのだろう。