「良いんですか……?」
おずおずと尋ねると、ヤガミは遠慮がちに笑みを見せた。
「勿論でございます。慣れぬ乗馬は大変でしょうから」
「あ、ありがとうございます……ではありがたく」
恐縮しながら両手で皮を受け取る。
ふわりとしたその感触は、顔を埋めたいくらいに気持ちが良かった。
「……ふん。ヤガミに感謝するんだな」
意地悪くそう言って、ミナトはスタスタとその場を離れていく。
その背中に舌を出して見送っていると、ヤガミが口を開いた。
「あの、カヤ様。宜しければ、本日翠様方がお泊りになる場所までご案内いたします。少し離れておりますので……」
「え?この辺りの天幕じゃないんですか?」
カヤは、既に幾つか建ち始めている天幕を見つめながら尋ねた。
てっきり自分達もそこで眠るのかと思ったのだが。
ヤガミは少しだけ辺りを見回すと、カヤにこっそりと言ってきた。
「ハヤセミ様方の天幕と真反対の場所に小さな洞窟がございます。なるべく離れた場所で、かつ私達の護衛がしやすいよう、翠様にはそちらでお休み頂くのですよ」
なるほど。
確かにあちらを見れば、ハヤセミ達が集団の隅っこに天幕を張り始めていた。
あの近くに天幕を張れば、翠達が込み入った話をしにくいだろう。
それに洞窟ならば入口さえしっかり固めれば危険も及びにくい。
「じゃあ、ご案内お願いしても良いですか?」
「はい。ではこちらへ」
ヤガミに案内されながら、カヤは歩き出した。
洞窟は少し坂を登った所にあるらしく、見上げればぽっかりと空いた入口が見える。
草を踏みしめ坂を登りながら、カヤは少し気になっていた事を聞く事にした。
「あの、失礼ですけど昨日謁見の間にいらっしゃいましたよね?」
前を行くヤガミに問いかけると、彼は首だけこちらを振り返った。
「ええ、おりましたが……」
不思議そうな表情をしたヤガミに、更に質問を投げる。
「……私が何者かもご存じなんですよね?」
カヤの声色は、訝し気なものだったに違いない。
ハヤセミ達が警戒されるのは当然だ。
けれど、カヤが隣国の者だと知っているヤガミは、なぜカヤも警戒しないのだろう?
それが不思議でたまらなかった。
「ああ、なるほど」
カヤが何を疑問に思っているのか分かったようで、ヤガミは小さく笑った。
「貴女様は、ミナト様のご友人ですので」
そして事も無げにそう言ったのだ。
「え?いやいや……全く仲良くなんか無いです。憎まれ口ばかりだし、どちらかと言えば嫌われてますよ」
慌てて首を振るが、ヤガミは可笑しそうに眼尻を下げたまま。
「ミナト様は、信頼している人しかリンに触らせません。ましてや乗せるなんてしませんよ」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。ですので、ミナト様が信頼している方は私共も信頼しております」
ヤガミは、はっきりとした口調でそう言った。
今日出発する前にリンを触らせてくれたミナトを思い出す。
そして、そう言えば何だかんだ言ってカヤをリンに乗せる事に対して、ミナトが嫌な顔一つしなかった事も。
先ほどまで心にあった憎たらしさが、しゅるしゅると萎んでいく。
ふと気が付いてしまったのだ。
『戻れないから』と言って笑ったカヤの声色に、寂しさが滲んでいたのではないかと。
そして、それをカヤが考えなくても良いように、わざと乱暴にしたのではと。
(まあ、そんなのただの都合の良い考えなのかもしれないけど……)
しかし、それが気のせいでは無いのだろうと、なんとなくの確信があった。
おずおずと尋ねると、ヤガミは遠慮がちに笑みを見せた。
「勿論でございます。慣れぬ乗馬は大変でしょうから」
「あ、ありがとうございます……ではありがたく」
恐縮しながら両手で皮を受け取る。
ふわりとしたその感触は、顔を埋めたいくらいに気持ちが良かった。
「……ふん。ヤガミに感謝するんだな」
意地悪くそう言って、ミナトはスタスタとその場を離れていく。
その背中に舌を出して見送っていると、ヤガミが口を開いた。
「あの、カヤ様。宜しければ、本日翠様方がお泊りになる場所までご案内いたします。少し離れておりますので……」
「え?この辺りの天幕じゃないんですか?」
カヤは、既に幾つか建ち始めている天幕を見つめながら尋ねた。
てっきり自分達もそこで眠るのかと思ったのだが。
ヤガミは少しだけ辺りを見回すと、カヤにこっそりと言ってきた。
「ハヤセミ様方の天幕と真反対の場所に小さな洞窟がございます。なるべく離れた場所で、かつ私達の護衛がしやすいよう、翠様にはそちらでお休み頂くのですよ」
なるほど。
確かにあちらを見れば、ハヤセミ達が集団の隅っこに天幕を張り始めていた。
あの近くに天幕を張れば、翠達が込み入った話をしにくいだろう。
それに洞窟ならば入口さえしっかり固めれば危険も及びにくい。
「じゃあ、ご案内お願いしても良いですか?」
「はい。ではこちらへ」
ヤガミに案内されながら、カヤは歩き出した。
洞窟は少し坂を登った所にあるらしく、見上げればぽっかりと空いた入口が見える。
草を踏みしめ坂を登りながら、カヤは少し気になっていた事を聞く事にした。
「あの、失礼ですけど昨日謁見の間にいらっしゃいましたよね?」
前を行くヤガミに問いかけると、彼は首だけこちらを振り返った。
「ええ、おりましたが……」
不思議そうな表情をしたヤガミに、更に質問を投げる。
「……私が何者かもご存じなんですよね?」
カヤの声色は、訝し気なものだったに違いない。
ハヤセミ達が警戒されるのは当然だ。
けれど、カヤが隣国の者だと知っているヤガミは、なぜカヤも警戒しないのだろう?
それが不思議でたまらなかった。
「ああ、なるほど」
カヤが何を疑問に思っているのか分かったようで、ヤガミは小さく笑った。
「貴女様は、ミナト様のご友人ですので」
そして事も無げにそう言ったのだ。
「え?いやいや……全く仲良くなんか無いです。憎まれ口ばかりだし、どちらかと言えば嫌われてますよ」
慌てて首を振るが、ヤガミは可笑しそうに眼尻を下げたまま。
「ミナト様は、信頼している人しかリンに触らせません。ましてや乗せるなんてしませんよ」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。ですので、ミナト様が信頼している方は私共も信頼しております」
ヤガミは、はっきりとした口調でそう言った。
今日出発する前にリンを触らせてくれたミナトを思い出す。
そして、そう言えば何だかんだ言ってカヤをリンに乗せる事に対して、ミナトが嫌な顔一つしなかった事も。
先ほどまで心にあった憎たらしさが、しゅるしゅると萎んでいく。
ふと気が付いてしまったのだ。
『戻れないから』と言って笑ったカヤの声色に、寂しさが滲んでいたのではないかと。
そして、それをカヤが考えなくても良いように、わざと乱暴にしたのではと。
(まあ、そんなのただの都合の良い考えなのかもしれないけど……)
しかし、それが気のせいでは無いのだろうと、なんとなくの確信があった。
